2016 Fiscal Year Annual Research Report
黒潮続流の十年規模変動に対する北西太平洋域の移動性擾乱と海上風、雲・降水系の応答
Project/Area Number |
16J04320
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
升永 竜介 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 大気海洋相互作用 / 黒潮続流 / 親潮 / 海洋前線 / 移動性擾乱 / 雲・降水系 |
Outline of Annual Research Achievements |
中緯度帯において、海面水温の強い水平勾配として特徴づけられる海洋前線の存在とその変動が、その近傍の海上風や雲、降水の分布に顕著な影響を及ぼしていることが近年明らかとなり注目を集めている。本課題では、海洋前線が適切に表現されるほど高い水平解像度の海面水温データを与えて作られた最新の大気再解析データを用いて、海洋前線が移動性擾乱やそれに伴う雲、降水の分布に及ぼす影響を定量的に調査している。 日本東海上に位置する黒潮続流前線付近の海面水温の暖水偏差に対応して、大気前線に伴う降水が局所的な増加を示す傾向が確認された。さらに、大気擾乱は広い領域に強い降水をもたらすが、その通過後に黒潮続流上でのみ弱いながらも降水が持続的に降り続く傾向にあることが確認された。これらは、平均場において黒潮続流に沿う降水の極大が形成されていることと整合的であり、黒潮続流が降水へ果たす役割を理解する上で重要な特徴である。 さらに、より低解像度の海面水温データを用いて作成された再解析データとの比較を通じ、海洋前線が大気へ及ぼす影響について、季節依存性と海域依存性についての調査を進めている。特に夏季において、海洋前線が大気へ与える顕著な影響は海面付近に留まらず、対流圏中層から上層(高度8~10km)まで及んでいることも見出された。この結果は、海洋前線がより大規模な大気循環へも影響を及ぼしている可能性を示唆している。これらの特徴は、日本東方海上のみならず、南半球も含めた海洋前線帯でほぼ整合的であることが確認され、これらの結果は海洋前線が全球における雲・降水分布に重要な役割を果たしていることを示している。さらに、大気再解析において海洋前線が大気へ及ぼす影響を衛星観測と整合的に表現するためには、高解像度の海面水温を与える必要があることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
海洋前線が適切に表現されるほど高い解像度の海面水温データを用いて作成された大気再解析データを用いて海洋前線が大気へ及ぼす影響を調査している。日本東方海上に位置する黒潮続流付近の暖水偏差に伴い、大気前線に伴う降水が局所的な増加を示していることや、移動性擾乱の通過後に黒潮続流上でのみ海上風収束や降水がより持続的になる傾向にあることが見出された。これらは、冬季平均場において黒潮続流に沿ってそれらの極大が形成されることと関係していると考えられる。 黒潮続流の流路変動に伴い北太平洋域の移動性擾乱活動が有意に変動することが先行研究から示唆されており、そのメカニズムについて調査を進めている。黒潮続流変動に対応する海面水温偏差が大気へ及ぼす直接の影響は比較的海面付近に限られていることが確認され、従来着目されてきた大気境界層上端付近の傾圧性ではなく、より下層の傾圧性が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。移動性擾乱活動の応答には顕著な季節性がある可能性も見出され、詳細な解析を進めている。 より低解像度の海面水温データを用いて作成された再解析データとの比較を通じて、海洋前線が大気へ及ぼす影響の季節依存性と地域依存性についても調査を進めている。海上風や降水の両データの平均場の差は、冬季の海洋前線付近で最も顕著であった。上昇流の鉛直分布にも顕著な違いがみられ、それは対流圏中層にまで及んでいる。一方、夏季は冬季に比べて差の振幅は小さいが、より深い構造をしており、対流圏上層にまで及んでいることが見出された。さらに、そのような大気の構造は黒潮続流域以外の海洋前線帯でも概ね整合的であるものの、南半球に位置するアガラス反転流域では比較的不明瞭であることが明らかにされた。 このように、黒潮続流が移動性擾乱へ及ぼす影響のみならず、海洋前線が全球における海上風や雲、降水系の分布へ及ぼす役割が明らかになりつつある。
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Strategy for Future Research Activity |
高水平解像度の海面水温データを与えて作られた再解析データJRA-55CHSデータは現在26年が利用可能であり、今後延長される予定である。このデータを用いたこれまでの解析から、冬季における黒潮続流付近の水温偏差が個々の大気擾乱に伴う海上風や降水の強度や持続性へ影響を及ぼすことが示唆されている。今後はそれを長期に渡って統計的に検討することで、海洋前線が大気擾乱へ与える影響を気候学的に明らかにする。特に、冬季平均場において黒潮続流に沿って見出される海上風収束や降水の極大の形成に対して、大気擾乱が果たす役割の定量的化を目指す。低水平解像度の海面水温データを用いて作成された再解析データJRA-55Cとの比較もすることで、海洋前線が果たす役割を明確にする。 さらに、黒潮続流が北太平洋のストームトラック活動へ及ぼす影響に関して、詳細な調査を行う。これまで得られた知見を裏付けるため、ラグ合成図解析等の大気の応答をより純粋に抽出できる手法を用いて黒潮続流が果たす役割をより明確にする。特に、黒潮続流の変動に対応する海面水温偏差分布と、その海面水温偏差の大気への直接の影響が及びうる高度について慎重に調査を進める。それらに基づき、大気の傾圧性の指標として従来用いられてきた定義の妥当性も考察しながら具体的なメカニズムを議論する。 海洋前線に沿って形成される大気のメソ構造の特徴ついて、大気下層における鉛直循環場や非断熱加熱の構造などこれまでに着目されてこなかった側面について調査を進める。特に、南半球も含め海域ごとの特徴の違いや季節依存性について調査し、それらをもたらす要因について海域毎の大気の背景場や大気擾乱活動の違いと関連付けながら議論する。高性能な衛星観測データとの比較や、各再解析データにおける運動量収支や水収支の整合性についての調査も行い、大気再解析における高解像度海面水温データの重要性を評価する。
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Research Products
(6 results)