2016 Fiscal Year Annual Research Report
ヒト細胞における複製開始制御とエピゲノム維持機構との連携の解明
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16J04327
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
大久保 義真 北海道大学, 大学院生命科学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | DNA複製 / エピジェネティクス / ヒストンメチル化酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の正常な増殖において、核内に納められているDNAを正確に複製することは必要不可欠である。ORC(Origin recognition complex)は、DNAの複製開始点を認識するタンパク質として、1992年に出芽酵母において発見され、ORC1-6からなる6つのタンパク質からなる複合体である。最近、ヒトORC2の免疫沈降産物に含まれる新規ORC結合タンパク質として、LRWD1(leucine-rich repeats and WD repeat domain containing 1)/ORCAが同定された。LRWD1をRNA干渉法により機能阻害すると、G1期が延長することから、LRWD1はDNAの複製開始にORCと共に極めて重要な役割を果たしていると考えられる。さらに報告者の所属する研究室において、ORCと相互作用する因子としてLRWD1を独自に同定していた。 報告者の解析からLRWD1とヒストンメチル化酵素G9aは相互作用し、LRWD1上のG9aはH3K9me2及びH3K9me3を導入する酵素活性があること、またLRWD1はG1期からS期への移行に重要でかつ、ORCがクロマチンへの結合に重要であることが分かっており、LRWD1はG9aと連携しヘテロクロマチックなヒストン修飾をクロマチンへと導入することで、ORCを複製開始点上に安定に存在させ、複製開始の制御に関与することが考えられる。 ヒトを含めた後生動物では、出芽酵母で発見されているような複製開始点に特有のDNA配列は見つかっておらず、複製開始点が決定される機構の実態は明らかとはなっていない。このことは、ヒストン修飾やクロマチン構造など、DNA配列だけでなくエピジェネティカルに制御される仕組みによって複製開始点が制御されていることを示唆している。LRWD1はORC構成因子と異なり後生動物にのみ存在することから、LRWD1の機能を明らかにすることは、ヒトにおけるDNA複製開始機構を理解する新たな知見を与えると期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
採用第1年度の研究年次計画では、(Ⅰ)LRWD1の複製開始装置形成への影響の検討、(Ⅱ)LRWD1変異体を用いたLRWD1-G9a結合意義の検討、(Ⅲ)G9aが複製開始に関与するかの検討を行うと計画していた。以下にそれらの実験で得られた結果を説明する。 (Ⅰ)LRWD1をノックダウンし、ORC及びMCMがクロマチンから脱離しやすくなるのかの検討を行った。塩濃度を変化させ、その濃度依存的な可溶性の検討をウェスタン・ブロットにより行ったところ、LRWD1ノックダウンによりORC2及びMCM3の可溶性の変化が見られた。このことから、LRWD1はORC及びMCMを含めた、複製開始複合体の安定なクロマチンへの結合に関与していることが考えられた。 (Ⅱ)LRWD1のG9aとの結合能を欠損させた変異体をRNAi耐性として、安定発現する細胞株を樹立し、この細胞と野生型を安定発現する細胞を用いた生細胞観察を行った。野生型を発現する細胞に対してLRWD1のノックダウンを行うと、親株では遅延していたG1期の長さの回復が見られた。一方で、変異体を発現する細胞に対してLRWD1のノックダウンを行うと、G1期の長さの回復が見られたなかった。これらのことから、LRWD1はG1期の進行に重要で、さらにその機能を果たすにはLRWD1とG9aの相互作用が極めて重要であることが示唆された。 (Ⅲ)G9aをRNAiにより機能阻害した細胞を、mCherryタグを付加したPCNAを用いた生細胞観察により、各細胞周期に分け、その時間の測定を行なった。その結果、G9aのノックダウンによりG1期、S期、G2期のいずれの細胞周期も延長する結果が得られ、G9aはLRWD1と相互作用し、G1期の進行に必須な役割を果たすのみならず、各細胞周期においても重要な役割を担っていることが示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として、次年度では以下の3つの実験を行おうと計画している。 (Ⅰ)LRWD1と結合したG9a依存的なヒストン修飾がクロマチン全体に対してどのように導入されているか検討を行う。RNA干渉法によりLRWD1を機能阻害した細胞に対して、抗ヒストン修飾抗体を用いた免疫染色や細胞抽出液に対するウェスタン・ブロットを行う。この染色の輝度値及びウェスタン・ブロットのバンド輝度値を定量解析し、LRWD1が核全体のヒストン修飾にどのように影響を及ぼすかを明らかにする。さらに免疫染色の定量解析系では細胞周期ごとに解析することで、LRWD1 が複製開始時のヒストン修飾量に影響を与えるかを明らかにする。 (Ⅱ)LRWD1がクロマチン全体のヒストン修飾量変化に影響を及ぼすかの検討を行う。抗LRWD1抗体を用い、ChIP-seqを行い染色体上でのLRWD1の結合部位を探索し、LRWD1が認識するクロマチン領域を同定する。またこの際にG9aのChIP-seqも行い、G9aとLRWD1がクロマチン上のいずれの部位で共存するかを明らかにする。以上から、これら因子により構築される複製開始点のクロマチン上の位置を特定する。 (Ⅲ)昨年度作成した蛍光タンパク質を付加した複製開始因子の挙動の検討を行う。現在まで、ヒト細胞における複製開始複合体各因子の生細胞観察はあまり行われておらず、複製開始複合体がどのように複製開始点上にリクルートされるか、その過程の時間連続的な局在観察は行われていなかった。そこでこれらの局在観察から得られる結果は、今までに知られていないものであり、新しい知見を得るために貴重な情報となることが期待される。 以上の実験を行い、LRWD1の機能をより詳細に解析を進めることにより得られる情報は、今までの細胞周期研究では知られていない情報を多く含むもので、そこから得られる知見は細胞周期の研究に対して、大きなインパクトを与える可能性があるものである。
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Research Products
(4 results)