2016 Fiscal Year Annual Research Report
DNA損傷による核内チロシンリン酸化を介するアポトーシス抑制とがん治療への応用
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16J04363
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
森井 真理子 千葉大学, 大学院薬学研究院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | チロシンリン酸化 / Src / Ku70 / アポトーシス / 分子生物学 / シグナル伝達 |
Outline of Annual Research Achievements |
日本において死亡原因第一位の疾患はがんであり、がんの新規治療法の探索は急務である。がんは様々な要因によって引き起こされるが、チロシンリン酸化を含めたシグナル伝達の異常やDNA 損傷応答制御の異常は、がんの発生・進行の重大な要因の一つである。本研究では、Src型チロシンキナーゼ(Src)によるチロシンリン酸化を介したアポトーシス抑制機構の解明を目的とし、特にDNA損傷応答に関わるタンパク質であるKu70に着目した。Ku70 はDNA損傷修復に必須の分子である一方で、アポトーシス抑制機能を持つことが報告されている。平成28年度には、SrcによるKu70の530番目のチロシンリン酸化がアドリアマイシンやUVによるDNA傷害時におけるアポトーシス抑制に関わることを見出した。内在性Ku70のチロシンリン酸化を検出したところ、Src阻害剤PP2添加によって内在性Ku70のチロシンリン酸化は大きく減弱したが、UV照射の有無では変化が見られなかった。Srcの活性についてもUV照射の有無で変化が見られなかったことから、Ku70チロシンリン酸化はUV刺激の有無に関わらず恒常的に起きていることが示唆された。また、Ku70のチロシンリン酸化は、特にアポトーシス誘導因子Baxを介したアポトーシスを抑制することが示唆された。次に、Ku70 チロシンリン酸化を介したアポトーシス抑制の分子機構の解析を行なった。Ku70のアセチル化レベルの増加はアポトーシスを増加させることが知られているため、Ku70のアセチル化に対するSrcの影響について調べたところ、Srcによるチロシンリン酸化はKu70のアセチル化を減弱させることを見出した。以上の結果から、DNA損傷時においてSrcによるKu70のチロシンリン酸化がアポトーシス抑制に重要な役割を果たしていることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度はSrc型チロシンキナーゼ(Src)による Ku70 チロシンリン酸化のアポトーシス抑制に対する影響とその分子機構の解析を計画していた。まず内在性Ku70をノックダウンしたがん細胞株においてノックダウン耐性なKu70野生型(wt)、非チロシンリン酸化体であるフェニルアラニン(Y530F)置換体、疑似リン酸化体であるグルタミン酸(Y530E)置換体それぞれをレスキュー発現する株の作製を試みた。しかしながら株の樹立には至らなかったことから、恒常発現株の作製は困難であることが示唆された。そのため代替案として、内在性Ku70存在下で誘導発現株の作製を試みたところ、Ku70-wt、Ku70-Y530F変異体、Ku70-Y530E変異体のそれぞれを誘導発現する株の樹立に成功した。それらの細胞株を用いた実験から、SrcがKu70の530番目のチロシンリン酸化を介してアポトーシスを抑制することを見出した。さらに、Ku70 チロシンリン酸化を介したアポトーシス抑制の分子機構として、SrcによるKu70チロシンリン酸化はKu70のアセチル化を減弱させることを見出した。研究の進捗が予想より早かったため、平成28年度中に論文発表を行なった。 内在性Ku70チロシンリン酸化の検出は非常に重要であるが、脱リン酸化反応が早いためにこれまで検出困難であった。しかしながら、脱リン酸化酵素阻害剤を用いた条件検討の末、Ku70の免疫沈降法による内在性Ku70チロシンリン酸化の検出に成功した。この手法を用いたところ、Srcのノックダウン細胞においては、Src阻害剤処理と同様に、Ku70のチロシンリン酸化が減弱し、アポトーシスも増加していることを明らかにした。以上の進捗状況から、おおむね順調に進展しているとみなすことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度には、がん悪性化・治療抵抗性におけるKu70をはじめとするチロシンリン酸化シグナルの関与を解明することを目的としている。内在性Ku70のチロシンリン酸化を検出するために、平成29年度においてKu70特異的リン酸化抗体を作製することを計画していたが、平成28年度におけるKu70のチロシンリン酸化解析の過程で、すでに内在性Ku70のチロシンリン酸化を免疫沈降法により検出する方法を確立した。この手法を用いた解析の結果、興味深いことに、Ku70のチロシンリン酸化レベルの高さとアポトーシス頻度の低さに相関が見られることがわかった。これは、がん悪性化・治療抵抗性においてKu70チロシンリン酸化の関与を示唆する重要なデータであると考えている。平成29年度は、より詳細な探索を行なえることが見込まれる。また、Src型チロシンキナーゼだけでなく、ABLなどの他のチロシンキナーゼによるKu70チロシンリン酸化についても検討したいと考えている。特に慢性骨髄性白血病の原因遺伝子として知られるBCR-ABLによるリン酸化シグナルは、チロシンリン酸化とがん悪性化・治療抵抗性を理解する上で重要なツールとなることが考えられる。 平成29年度からマウスを用いたin vivo解析に熟練した研究室に異動し、マウスを使った実験手技を修得する。その後、in vivo解析系を用いてチロシンリン酸化とがん悪性化・治療抵抗性の関連について解析を行なう計画をしている。Ku70-wt, YF, YE変異体発現がん細胞株をそれぞれヌードマウスに移植する計画をしていたが、ノックダウンレスキュー株の樹立が困難であったため、BCR-ABL陽性マウス等を用いた実験系を併用しながらKu70チロシンリン酸化とがんの悪性化・治療抵抗性についてin vivoでの解析を進めていく。
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[Presentation] がん遺伝子v-Srcによる細胞周期進行抑制の分子機構.2017
Author(s)
本田拓也, 鈴木 亘, 森井真理子, 添田修平, 阿部紘平, 山口千尋, 久保田 翔, 青山和正, 中山祐治, 山口憲孝, 山口直人.
Organizer
第137回日本薬学会年会
Place of Presentation
仙台
Year and Date
2017-03-24 – 2017-03-27
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[Presentation] The effect of the oncogenic v-Src on cell cycle progression.2016
Author(s)
Takuya Honda, Ko Suzuki, Mariko Morii, Shuhei Soeda, Kohei Abe, Chihiro Yamaguchi, Sho Kubota, Kazumasa Aoyama, Yuji Nakayama, Noritaka Yamaguchi, and Naoto Yamaguchi.
Organizer
The 7th EMBO meeting 2016
Place of Presentation
Manheim, Germany
Year and Date
2016-09-10 – 2016-09-13
Int'l Joint Research
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