2016 Fiscal Year Annual Research Report
カーボネート型濃厚系高分子電解質の特異的イオン伝導挙動の解明
Project/Area Number |
16J04407
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
木村 謙斗 東京農工大学, 大学院生物システム応用科学府, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 固体高分子電解質 / リチウム二次電池 / IRスペクトル / ラマンスペクトル / 固体NMR / 溶媒和構造 / ボルタンメトリー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、まずポリエチレンカーボネート(PEC)/LiFSI電解質について、スペクトル測定の結果から電解質中の塩溶存状態の解析と考察を行った。PEC/LiFSI電解質は、ガラス転移温度が塩濃度増加と共に上昇し、それに伴いイオン伝導度も塩濃度増加と共に上昇する、また高Liイオン輸率を示すという、一般的に研究されているポリエーテル型電解質とは異なるイオン伝導挙動を示すことが分かっている。今回行ったFT-IR測定、およびラマンスペクトル測定の結果から、PEC/LiFSI電解質では、ポリエーテル電解質とは異なり強固な錯体構造を形成することが難しいため、Liイオンを介した物理架橋効果に対してFSIイオンの可塑化効果が優勢となり、特異的な性質を示すことが推察された。さらに、固体7Liマジック角回転(MAS)NMRの結果からは、LiイオンとFSIイオンの相互作用が、LiイオンとC=O基の相互作用を弱めることも、高Liイオン輸率などの特性につながっていることが示唆された。また、PEC/LiTFSI、およびPEC/LiFSI電解質についてリニアスイープボルタンメトリーを用いて耐酸化性の塩濃度依存性を調査した。すると、耐酸化性は塩濃度の増加と共に上昇し、約100 mol%以上の高濃度では室温付近で約5 V vs. Li/Li+を超える優れた性能を示すことが明らかになった。これは、塩が凝集体として電極表面に存在しているためであると考えられる。これらの成果をまとめると、本研究で着目しているPEC電解質は一般的なポリエーテル電解質とは異なる塩溶存状態を有し、それに基づいた特異的な性質を示すことが明らかとなり、今後の材料設計につながる知見が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、FT-IR測定やラマンスペクトル測定、固体7Li NMR測定などのスペクトル測定を用いて、PEC電解質中での塩の溶解により発生するイオンが、イオン対・凝集イオンなどのうちどのような形態をとっているのかを詳細に解析・考察することができた。そのうえで、複素インピーダンス法を用いた電気化学測定やパルス磁場勾配NMR測定も並行して実施し、上記のスペクトル測定結果と合わせた考察を行うことができた。これにより、電解質の塩溶存状態と電気化学的性質の相関を考察することができた。また、こうした研究により得られた電解質の塩溶存状態に関する新しい知見をもとに、優れた耐酸化性の発現という新しい知見を得ることができた。これらのことから、明らかとなったイオン伝導メカニズムに基づき優れた性能を示す電池系を探索するという、平成29年度に実施予定となっている内容につながる成果を得ることができたと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究で、PEC電解質の耐酸化性が塩濃度の増加と共に上昇し、高濃度領域で優れた性能を示すことが明らかになった。これらの結果を受け、平成29年度はこのPEC電解質の高耐酸化性を活かし、高作動電圧のLi二次電池用正極と組み合わせた試作電池の作製と性能評価を行いたいと考えている。具体的には、正極活物質としてLiMn2O4や、5 V級電極材料であるLiNi0.5Mn1.5O4など種々の正極材料と組み合わせコイン型電池を作製する。充放電試験によりこれまでの研究で明らかになったイオン溶存状態と、電池用電解質としての性能の相関を解明することにより、新規濃厚系固体高分子電解質として提案することを目指す。この際、ポリマー末端にある水酸基(OH基)の存在による、バックバイティングと呼ばれる機構に基づく分解が問題となることが予期される。この機構による分解は、加熱、および電池の充放電に伴う電気化学的な負荷により促進され、ボルタンメトリーによる測定ではその影響が小さくても、長時間の電池作動では大きく影響を及ぼす可能性がある。そこで、ポリマー末端のエンドキャップ反応による不活性化と、その影響の調査を試みる。
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