2017 Fiscal Year Annual Research Report
赤外コヒーレント制御による固体中の多段階振動励起とプロトン移動反応の操作
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16J04694
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
櫻井 敦教 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(SPD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 非線形分光 / プロトン伝導 / 超高速分光 / 固体酸化物 / 赤外分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、昨年の研究を発展させて、固体酸化物中のプロトン伝導に影響を与える格子振動(フォノン)について調べた。 15Kの極低温から300Kまで試料温度を変えながら、KTaO3結晶中のOH/OD振動モードの赤外吸収スペクトルを調べることで、プロトン移動に影響を与えるフォノンモードを調べた。前年度の赤外ポンプ・プローブ分光の結果から、OD振動モードのエネルギー緩和時間(T1)は200ps程度であることがわかっている。一方、赤外吸収スペクトルの線幅は4cm-1程度なので、位相緩和時間(T2)は3.5psである。よって、スペクトルの線幅の起源は、純粋位相緩和時間(T2*)が支配的であることがわかる。このような場合、OH/OD振動モードとフォノンの結合は十分弱いとみなせるので、weak phonon couplingモデルを用いて、赤外吸収スペクトルのピーク周波数と、その線幅の温度依存性を解析した。その結果、OH/OD振動に周波数変調を与えているフォノンモードの周波数は150cm-1であることがわかった。さらに中性子散乱の先行研究の結果と比較すると、このフォノンモードはO-Ta-Oの変角振動であると同定された。このフォノンモードは、O...O間距離を実効的に変化させることで、プロトン移動の活性化障壁を下げ、プロトン移動をアシストしていると考えられる。 以上の結果は、昨年度の研究内容と合わせて、現在論文投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の赤外ポンプ・プローブ分光の実験系を改善することで、信号のS/N比を向上させるとともに、OH/OD振動の赤外吸収スペクトルの温度依存性を調べることで、固体酸化物中のプロトン移動メカニズムの詳細を分光学的に初めて明らかにした。これまであまり取り組まれて来なかった研究対象に対して、試料準備から、光学系のセットアップ、測定とその観測データの解析を研究員自らが一貫して行ったことを考慮すれば、着実な研究の進展があったものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
KTaO3を対象にした実験はこれで終了させ、新しい別の材料中のプロトン伝導メカニズムの研究にも取り組む。実際の固体酸化物中では不純物がドープされた状況で高いプロトン伝導性が発揮されるので、このような問題にも注力していきたい。
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