2016 Fiscal Year Annual Research Report
Frazil ice formation in coastal polynyas and its impact on material cycle
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16J04868
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
伊藤 優人 北海道大学, 環境科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | フラジルアイス / 海底堆積物 / 過冷却 / 沿岸ポリニヤ / 物質循環 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、沿岸ポリニヤ(海氷域内の薄氷・開放水面域)における海中でのフラジルアイス(大きさ数mm未満の氷の結晶)生成と物質循環を駆動する海氷による堆積物の取り込み過程を現場観測からの解明することである。 1.係留データの解析 オホーツク海サハリン北東岸沖やチャクチ海バロー沖の水深40-100mの海域で過去に取得されたADCPデータを、手つかずであった音響散乱強度データに特に着目して改めて解析した。その結果、ポリニヤや氷縁域において、強風擾乱環境の下でフラジルアイスが30 m以浅の過冷却が生じた海中で生成することや、強い流れや混合によって海底堆積物が海面付近まで上方輸送されることが、同時に観測された。これらは、海面のみでなく海中でも海氷が生成されることを明らかにしただけでなく、フラジルアイスが海底堆積物に海中で接触し、それを捕獲する可能性を示唆する。フラジルアイスに捕獲された堆積物は、フラジルアイスが海氷盤へと固化する際に海氷内へと取り込まれると考えられる。この過程は室内実験による報告があるが、実際に現場観測に成功した例は本研究が初めてである。海中でのフラジルアイス生成についても観測例が未だ数例しかない。そのため、本研究は極域海洋での海氷生成や物質循環の過程の解明に大きく貢献したといえる。 2.現場海氷観測 上記の係留観測データからは測定できない、海面付近での過冷却の大きさ、海中のフラジルアイスの大きさや量の測定、海氷中の含有粒子の大きさと量を明らかにするために、オホーツク海沖での砕氷船「そうや」による観測やオホーツク沿岸域とチャクチ海沿岸域での海氷観測を行った。砕氷船による観測では、数観測点でフラジルアイスの海中での分布の測定や個々の氷の採寸を行った。また、全観測により数種類の海氷サンプルを採取した。これら観測データおよび海氷サンプルの分析・解析は現在進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オホーツク海サハリン係留観測データから、海氷への海底堆積物の取り込み過程が明らかとなった。オホーツク海では海氷中に多量に含まれる鉄などの物質が、春に海氷の融解時に海中へと放出され、地球上で最大規模の植物プランクトンの大増殖を引き起こすとされている。海氷中の物質の起源や、それらの海氷への取り込み過程については諸説考えられていたが、どれも決定打を欠くものであった。本研究はこの問題に対し、海氷中の物質の起源は海底堆積物であり、海底堆積物の海氷による取り込みには海中での堆積物とフラジルアイスの接触が重要であることを現場観測から明確に示した。この研究結果をまとめた論文がJournal of Geophysical Research-Oceansに掲載された。 チャクチ海バロー沖係留データについては、全6年の観測期間のうち初めの1年分のみの解析に留まってはいるものの、沿岸ポリニヤにおいて過冷却海水中でフラジルアイスが生成されることや、海底から海面付近まで海底堆積物が輸送されることが明らかとなった。この結果はサンフランシスコで開催された国際学会において口頭発表を行った。今後は、他の年のデータの解析も行い、沿岸ポリニヤでの諸過程の詳細を明らかにする必要がある。 上記の係留観測より明らかとなった海氷による堆積物の取り込み過程の検証や、フラジルアイスについての直接測定を目的とした海氷域(オホーツク海、チャクチ海)での現場観測を行い、数サンプルの採取に成功した。海氷域に人間が赴き、観測する機会は非常に限られているため、今回の直接観測が行えたことは、本研究において大きな意義がある。ただし、観測データの解析やサンプルの分析等にまで手が回っていない状況であり、今後取り組むべき大きな課題となっている。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 現場観測データやサンプルの解析・分析 平成28年度に実施した海氷観測で得たデータの解析やサンプルの分析を行う必要がある。サンプルの分析については、低温室を利用して海氷の薄片解析などを行うと同時に、同一海氷サンプル中に含まれる粒子の粒径分布を分析し、両者を比較することで、海氷への堆積物の取り込み過程とみられるフラジルアイスによる堆積物の捕獲仮説の検証や、それに寄与する堆積物粒子の大きさや量を明らかにする。オホーツク海北海道沖での観測では海面付近の海中でのフラジルアイスの分布状況や個々のフラジルアイスの採寸を実施したので、これらの結果を整理し、未だ調査が行われたことがない、この海域でのフラジルアイスの基礎的な性質を明らかにする。 2. 現場海氷観測の実施 平成28年度と同様にアラスカ沿岸での海氷観測(海氷コアの採取)を行う予定である。また、第59次日本南極観測隊に参加して南極海氷域での観測を実施する。これについては、ポリニヤ域や氷河周辺海域での海洋観測と同時に海中撮影を行い、フラジルアイスの直接観測を目指す。 3. 未だ解析が行われていない係留データの解析 過去にオホーツク海サハリン沖や南極ケープダンレー沖のポリニヤ域実施された係留観測により取得されたデータや、平成28年度に解析ができなかった残りのバロー沖係留データの解析を行い、ポリニヤにおける過冷却海水中でのフラジルアイス生成や、海氷への堆積物の取り込み過程を調べる。これから、それらポリニヤでの諸過程の詳細が明かされる期待に加え、異なる3海域でのデータを有する世界的にも類を見ない強みを生かし、ポリニヤでのフラジルアイス生成やフラジルアイスによる海底堆積物の取り込みが、ポリニヤで一般に起こり得るのか、その海域に特有の何かが効く現象なのか、といった今までにないユニークな議論の展開が期待できる。
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Research Products
(7 results)