2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J04889
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
馬場 智之 北海道大学, 大学院理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | クラスター構造 / 反対称化分子動力学 / 不安定核 / 原子核構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
原子核の極めて特異な構造の一つに直鎖クラスター構造があり、これはアルファクラスター(4He核)が直線上に並んだ構造である。直鎖クラスター構造は非常に変形度が大きく、従来の常識を超えた特異性を持つため、長らく興味を持たれ研究されている。3個のアルファクラスターを構成要素とする炭素同位体において、直鎖クラスター構造の存在可能性が理論的に提唱されており、近年、実験による探索も活発になってきている。本課題の目的は、実験と比較可能な励起エネルギーやアルファ崩壊幅などの物理量を定量的に予言し、直鎖クラスター構造の存在と性質を解明することである。 炭素同位体の中でも14Cにおける直鎖クラスター構造の実験的探索が近年最も盛んであり、2014年にイギリス、2016年にアメリカ、2017年に日本、中国の実験グループによって論文が発表されている。いずれの実験も独立に行われたにも関わらず、励起エネルギーが互いに近い所に共鳴状態が観測され、これらは直鎖クラスター状態の有力な候補と考えられている。そこで本研究では、反対称化分子動力学と呼ばれるクラスター構造を仮定しない微視的手法を用いて、14Cにおける直鎖クラスター構造の存在可能性を調べた。 結果として、余剰中性子の占有する分子軌道が異なる、2種類の直鎖クラスター構造が存在することを示した。1つ目の、パイ軌道の直鎖クラスター構造は観測された共鳴状態と励起エネルギーが非常に近く、やはり観測された共鳴状態は直鎖クラスター状態の有力な候補であることを示した。2つ目の、シグマ軌道の直鎖クラスター構造が存在する可能性は本研究で初めて示された。また、14Cの直鎖クラスター構造は基本的に10Beと4Heに崩壊するが、直鎖クラスター構造がパイ軌道かシグマ軌道かによって崩壊先の10Beの状態が変わることを明らかにした。これは実験的に両者を区別する上でも重要である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2014年から2017年までに観測で報告されている14Cの共鳴状態は、先行研究で予測されていたパイ軌道の直鎖クラスター状態と励起エネルギーが近い。したがって、これらの共鳴状態はパイ軌道の直鎖クラスター状態の有力な候補であると考えられていた。本研究もこの予見に則り、パイ軌道の直鎖クラスター状態について、先行研究よりさらに定量的に励起エネルギーを計算し、また、観測では得られているが理論予測が存在しないアルファ崩壊幅についても計算する予定であった。実際、この計画は順調に進み、励起エネルギーやアルファ崩壊幅を実験と定量的に比較することで、パイ軌道の直鎖クラスター状態の存在可能性をより強く示すことに成功した。しかし、本研究ではパイ軌道の直鎖クラスター構造に加えて、当初予期していなかったシグマ軌道の直鎖クラスター構造が存在する可能性を示した。14Cにおいてシグマ軌道の直鎖クラスター構造が存在する可能性は、実験・理論ともに今まで予測されておらず、本研究が最初の報告となった。 以上の結果を、7月に北京大学で行われた研究会にて報告したところ、北京大学の実験グループはシグマ軌道の直鎖クラスター構造も観測できている可能性が高いと判明した。これは、観測された状態がシグマ軌道の直鎖クラスター状態と励起エネルギーが近いだけでなく、その崩壊先の10Beがシグマ軌道である可能性が高いと報告されたからである。この結果を受け、本研究も2種類の直鎖クラスター構造の崩壊パターンに着目し、崩壊先の10Beの状態が異なるアルファ崩壊幅を計算した。その結果、14Cのパイ軌道の直鎖クラスター構造は10Beのパイ軌道の状態へ、14Cのシグマ軌道の直鎖クラスター構造は10Beのシグマ軌道の状態へ崩壊するアルファ崩壊幅が大きいことを明らかにした。以上のように、理論と実験が連携することで、直鎖クラスター構造の理解が大きく進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で新たに提唱された、14Cのシグマ軌道の直鎖クラスター構造について、その存在可能性を観測からより強く立証できるよう、シグマ軌道の直鎖クラスター構造が6Heと2個の4He (8Be)へ崩壊、すなわち3体崩壊する可能性に着目する。パイ軌道の直鎖クラスター構造に比べて、シグマ軌道の直鎖クラスター構造は励起エネルギーが高く、シグマ軌道の直鎖クラスター状態は6He+4He+4Heのしきい値よりも上に存在する。したがって、低スピン状態であれば、パイ軌道の直鎖クラスター状態は3体崩壊せず、シグマ軌道の直鎖クラスター状態のみ3体崩壊が可能となる。よって、実験で3体崩壊が観測されれば、シグマ軌道の直鎖クラスター構造の存在可能性を立証する強い証拠となりうる。以上の結果はすでに論文としてまとめており、現在投稿中である。 14Cのみならず、16Cにおいても直鎖クラスター構造を探索する実験および解析が東京大学の実験グループによって進行中である。16Cの直鎖クラスター構造は炭素同位体の中でも、直鎖が曲がる運動に対して最も安定であることが先行研究で示唆されている。この安定性については余剰中性子の分子軌道が重要な役割をすると考えられている。したがって、16Cにおける直鎖クラスター構造の立証も非常に意義があり、今後の重要な課題となる。特に、負パリティ状態の直鎖クラスター構造は、他の同位体も含めて未だに明確な議論がされていないため、本研究でその存在可能性を調べる。また、16Cの直鎖クラスター構造では、アルファ崩壊幅の理論計算も行われていないため、本研究で行う。加えて、新たに中性子崩壊幅も計算する。直鎖クラスター構造は中性子を放出して崩壊するより4He核を放出して崩壊するため、中性子崩壊幅を計算し、アルファ崩壊幅と比較することで直鎖クラスター構造のさらに強い証拠となりうる。
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