2017 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝子発現ダイナミクスのモデル化と細胞分化機序の解明
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16J05079
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
松本 拡高 国立研究開発法人理化学研究所, 情報基盤センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | バイオインフォマティクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は昨年度に引き続き、細胞分化過程に対する1細胞RNA-seq(scRNA-seq)データから、遺伝子間制御ネットワークを推定するための新規アルゴリズムの開発および検証を行った。昨年度に投稿段階であった論文において、レビュワーに指摘された点などの修正などを行い、最終的にBioinformatics誌へ受理されるに至った。その上で、開発アルゴリズムを細胞運命決定機構の解析や、CRISPR/Cas9などを用いた大量の摂動発現データの解析に応用できないか、数理モデルの拡張などを行った。 本年度はさらに、空間における発現制御のモデル化および解析を初めた。上述の研究テーマでは、時間軸に対する遺伝子発現ダイナミクスを取り扱った。一方で、空間軸に対する発現ダイナミクスもまた、初期発生をはじめ、細胞分化や組織・形態形成において重要である。そして、その発現の制御構造を理解することが、空間パターンの自発的な形成と維持を理解する上で必要である。近年、空間情報を含むトランスクリプトームデータが取得可能になってきており、このようなデータを活用することで、空間発現のダイナミクスや制御を解明できると期待される。そこで本年度は、そのような大規模空間トランスクリプトームデータが得られた時に、空間に関わる制御ネットワークを推定するためのアルゴリズムの開発を行った。本研究では、反応拡散方程式を基盤に、反応項を線形化したモデルを開発した。そして、そのような線形化反応拡散方程式では、定常状態においてパラメータ最適化が線形回帰により効率的に求まることを導出した。この理論を元に、ショウジョウバエの初期発生における特徴的な空間発現パターン制御の制御ネットワークの推定と解析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
scRNA-seqを用いると、実験時間以上に高解像度な分化進行度(擬時間)を推定することが可能であり、この擬時間を活用することで、詳細な発現変動を理解出来ると期待される。本年度は、昨年度に投稿中であった、擬似間を活用し効率的に遺伝子制御ネットワークを推定する研究を続け、Bioinformatics誌へ受理されるに至った。その上で、細胞種の分岐や様々な摂動データがある場合など、様々なケースに拡張できないか拡張を行った。このように、scRNA-seqから時系列発現ダイナミクスをモデル化及び解析する研究は、順調に進んでいると考えられる。 また、本年度は新たに空間情報を考慮し、発現制御を理解するための理論の開発に取り組んだ。本研究では、空間モデルとして有名な反応拡散方程式を基盤に、効率的に制御ネットワークを推定するモデルを開発した。ただし、開発したモデルで検証をする過程で、本モデルの表現力は弱く実際の空間発現データに適用するには問題が多いことが判明した。このように、空間発現制御に関わるダイナミクスの研究に関しては順調とは言えず、さらなる研究が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、時系列の発現ダイナミクスのモデル化および解析の研究においては、これまでの結果をもとに、様々な生物学的現象や実験系に適用できないかを検証し、より発展的な解析が可能なアルゴリズムの開発を目指す。 また、空間発現解析においては、これまでに開発した解析モデルの改良に取り組み、その上で、実際の空間発現データの解析を行い、空間パターン形成に関わる発現の制御メカニズムの解析を行う。。特に、scRNA-seqにおいてはin-situハイブリダイゼーションの結果と照らし合わせることで、空間発現データを再現する技術が研究されており、このような技術と組み合わせることで、細胞間コミュニケーションなどの空間的な制御の意義の解明を目指す。 さらに、本年度から新たに、細胞系譜の情報が与えられたscRNA-seqの解析技術の開発を行う。これまでのスナップショットの発現データでは、細胞種間の遷移ダイナミクスを理解する上で限界があった。しかし近年、細胞の系譜を細胞内に記録する技術が開発され、この技術がscRNA-seqに組み込まれたことでこの状況は打破されつつある。これら技術では、ある標的配列をゲノムに組み込み、その標的配列に時間と共にランダムに変異を蓄積させ、それが履歴として働き、各細胞の系譜を復元できるというものである。そこで本研究では、細胞種や系譜を推定するアルゴリズムを確立すると共に、本質的な細胞状態の遷移構造を抽出することで、細胞種間の本質的な状態遷移ダイナミクスの解明を目指す。
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