2016 Fiscal Year Annual Research Report
ピレンを鍵骨格とする斬新なナノカーボンマテリアルの開拓
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16J05281
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Research Institution | Nara Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
松本 彬伸 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 分子性ナノグラフェン / 多環芳香族化合物 / 酸化種 / 安定性 / 芳香族性 / カーボンナノチューブ |
Outline of Annual Research Achievements |
分子性グラフェンでの検討を行う前に、まずより単純な構造である多環芳香族炭化水素の酸化状態における電子状態の解明に着手した。多環芳香族炭化水素は分子性グラフェンを構成するための重要な構成要素であり、得られた知見は、分子性グラフェンの電子状態・反応性を解明するうえで重要な情報になると考えられる。特に、多環芳香族炭化水素化合物の中でもペリレンに着目して研究を行った。 結合位置が異なる2種類のペリレン誘導体をそれぞれ合成した。ペリレン誘導体と酸化剤を反応させ、紫外可視吸収スペクトルを測定した結果、それぞれ異なった吸収波形を示した。このことから、2種類のペリレン誘導体のラジカルカチオンおよびジカチオンは、異なる電子状態をとっていることが確認された。 また、ペリレン誘導体1のジカチオン体の単結晶X線構造解析に成功した。中性状態とジカチオン状態の結合距離を基にHOMA値を算出した結果、中性状態では2つのナフタレン部位に芳香族性が寄与し、ジカチオン状態ではその芳香族性はアントラセン骨格に変化したことを実験事実として明らかにした。一方で、ペリレン誘導体2のDFT計算によって、ジカチオン状態はフェナントレンの電子状態をとっていることが示唆された。 これらの結果から、酸化に伴う芳香族性のエリアのシフトは、他の多環芳香族炭化水素でも十分に起こりうると考えられる。これらの知見は、分子グラフェンの酸化種の安定性や化学修飾を行う際の反応メカニズム予測することができるだけでなく、新規機能性を有した多環芳香族炭化水素の合成や有機エレクトニクス材料を開発する上での設計指針としての十分な役割を果たすと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
目標に掲げる多環芳香族炭化水素(PAH)にもとづく斬新なナノカーボンマテリアルの創製に向けて、当該年度は精力的にPAHの酸化種を制御する研究およびその知見を活かした高次構造体の構築に取りかかっていた。 ピレンやペリレン誘導体の反応性を制御することで、安定な酸化種の生成が行えることを見出した。また、結合位置の違いによっても、その電子状態が大きく異なることを実験的に証明することができた。特に、単結晶構造解析による緻密な議論によって、PAHの2電子酸化種について新たなClar則の適用事例を実験事実として実証することに成功した。 また、これらの研究成果は、第一著者として国際論文を2報報告し、うち1報は扉絵を獲得した。国際会議でもポスター発表を行うことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、これらの得られた知見をもとに、最大の目標であるナノカーボンチューブの完全有機合成に向けて、研究を展開していく予定である。 ピレンの置換位置と反応性について精査しながら、ワンポット合成、ステップワイズ合成と順に合成ルートを探索していく。反応を進めていく上で、置換基や触媒など条件を絞り込み最適なものを見つけ出していく作業がこの分子を構築する上で重要な工程であると考えている。 効果的な環状化方法の確立のために、確実なプロセスを踏みながら、研究を行っていく予定である。また、ナノカーボンチューブの合成が成功したなら、ホスト分子としての性能や有機半導体特性についても調査を行っていく予定である。
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Research Products
(4 results)