2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J05298
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松井 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | アルド・ロッシ / 伝統 / 戦後イタリア / 都市の建築 / 都市 / アドルフ・ロース |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、建築家アルド・ロッシの(A)1950年代の言説と(B)1960年代の言説(一部)という2つのテーマを研究範囲として設定した。 (A)については、戦後イタリア建築文化における「伝統」の議論を、単なる近代建築批判ではなく、複数の伝統論の対立という観点から考察した。さらにロッシの伝統論が、同時期のイタリア共産党系知識人・芸術家の議論を参照していることも明らかにした。以上の成果を踏まえて、1950年代の言説においてロッシが新古典主義建築に対して与えていた意義を考察した。これまでロッシの新古典主義建築論はその形態的嗜好において理解されがちであったことに対して、本研究は概念的・イデオロギー的な側面から理解する視点を提示している点で重要な意義を持ちうる。 また今年度は(A)と(B)の2つの時期のロッシの言説に対する通時的な視点を得るために、ロッシが両時期にウィーンの建築家アドルフ・ロースを参照していたことに注目し、そのロースの評価の変化を追跡した。この結果、歴史というテーマに対するロッシの観点が、1950年代には近代建築運動との対決の中でアカデミックな意味での「歴史・伝統」であったのに対して、1960年代になるとイタリア国内で深刻化していた都市問題を背景に、都市の中を流れる具体的な「時間・歴史」へと変化したことが明らかとなった。 またロッシが(B)の1960年代に発表した著作『都市の建築』について、同時代的背景を明らかにするために、同時期にロッシが助手として参加したヴェネツィア建築大学の講座の資料を調査した。この結果、『都市の建築』がヴェネツィアにおいて他の研究者たちと行われた共同作業の成果であったことが明らかとなった。これまでロッシという一人の建築家の独創的な著作として見なされてきた『都市の建築』に対して、本研究の成果は新たな光を当てたと言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、当初の予定通り、建築家アルド・ロッシの(A)1950年代の言説に関する研究をまとめあげ、一定の区切りをつけることができた。この時期は、ロッシの建築理論の萌芽段階であり、今年度の研究成果に基づいてロッシの建築理論のその後の発展が適切に追跡・理解できると予想される。また同時期のロッシの未公刊論考を入手するために、次年度に予定していた国外での資料収集を前倒しで今年度に行うことになったが、その結果として、次年度の研究における新たな視点を得ることもできた。 またもうひとつの(B)1960年代の言説というテーマについても、ロッシの建築理論の展開の時系列とは相前後する形で、次年度に予定していた1963年-66年の資料調査を前倒しで行ったが、このことによって1960年代初頭のロッシの議論のどこに独自性があるのかも把握することができた。加えて、1950年代から1960年代にかけてのロッシの言説の変化という新しい視点を得ることもできた。 各テーマの研究成果を学術発表・論文としてまとめる作業も順次進めており、全体として本研究は順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度の具体的な研究テーマは、(B)1960年代と(C)1968年以降のロッシの言説という2つを設定している。 (B)1960年代のロッシ自身の議論については本年度に資料の読み込みが進んだ一方、ロッシ以外の他の建築家・都市計画家・批評家の言説については、資料収集・読み込みともにいまだ不十分である。したがって次年度は後者の研究を重点的に進め、ある程度進んだ段階で、改めてロッシの議論との比較・対象を行う。 また今年度に前倒しで行った国外資料調査により、次年度に研究対象としていた(C)1968年以降のロッシの言説について、新たな視点・論点が浮かび上がってきた。なかでもロッシが同時期にスイスのチューリッヒ工科大学で行っていた教育活動が、その建築理論においても重要な背景であることが分かった。したがって今年度は、イタリアでの現地調査に加えて、スイスのチューリッヒ工科大学での資料調査も追加する予定である。ロッシ自身による論文・著作・雑誌記事・草稿といった資料は本年度にかなりの程度収集することができたので、これらの新しい調査事項も十分に遂行可能であると考えている。
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