2017 Fiscal Year Annual Research Report
脳内ニューロン間の協調とその作用の行動学的・生理学的解析
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16J05301
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鹿野 悠 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | Temporal processing / Hippocampus / Striatum / Tetrode / Multiunit recording / Cardiac pacing |
Outline of Annual Research Achievements |
生物が知覚する時間には様々なスケールがあり、神経科学や分子生物学など様々な切り口から研究が進められている。中でも日単位(概日リズム)やミリ秒~秒単位についての知見は豊富に存在する一方で、十秒~数分~数時間といった「インターバル時間」に関しての知見は乏しい状況にある。そこでインターバル時間のちょうど中央のスケールにあたる「分単位」の知覚に関与する神経メカニズムを解明するためにラットを用いた行動課題を構築し、分単位で起こる行動変化を引き起こすことに成功した。従来、分単位の行動課題は動物側にとってモチベーション低下の懸念があったり、実験者側にとっても十分な試行回数が確保できない可能性があるなどし、従来避けられてきた時間長領域である。これらの問題点を克服するために、高い正答率で取り組める行動課題とし、かつ区画化する時間長を5分とすることで一定の試行数(15回以上)を確保した。この課題でラットは25cm*25cmの比較的狭い課題部屋に入れられ、5分おきに部屋の一角にある餌場から報酬(45 mgペレット)が与えられた。記憶や空間認知に関与する海馬のCA1からテトロードを用いてin vivo多細胞同時記録を行った。分単位の時間知覚課題遂行中の個々の海馬神経活動のスパイク発生タイミングや発生頻度を解析した結果、一部の神経細胞(約半数)に経過時間依存的な活動が見られた。具体的には、ペレット獲得直後に発火頻度が減少/増加するが2-3分後から徐々に増加/減少し始めて発火頻度が回復し、5分後にペレットを獲得後再び減少/増加した。このように、実験者が何の外的刺激を与えずとも5分間にわたって自発的かつ持続的な発火頻度変化を繰り返し引き起こすことが示された。従来海馬で知られているタイムセル(~20s程度持続)といった活動とは時間長のスケールの異なる、新たな海馬の計時メカニズムを発見することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
私は海馬(hippocampus)の神経活動が個体の行動や時空間(特に分単位の経過時間)の情報をどのように表象しているのかに着目して記録・解析を行っている。しかしながら時間知覚における海馬の重要性を主張するためには、従来「線条体(striatum)」において盛んにおこなわれてきた秒単位の時間知覚の研究との整合性を取りながら、それらの活動を比較しつつ記述する必要があると考えた。従来の計画(海馬からの電気生理記録)に加え、同時に線条体からも行動課題中の神経活動記録を取ることとした。しかしながらテトロード記録においてこの2領域の同時記録を行うことは容易ではなかった。なぜならテトロードは深さ方向(背腹軸)に電極位置を調整することは出来ても、前後方向(吻尾軸)に4.3 mm程度も離れている2領域から同時に記録を取るには、記録装置そのものを設計し直す必要があったからである。私は慢性埋め込み用マイクロドライブのテトロード格納バンドルの先端を2つに分離したもの(バンドル間距離約4.3 mm)を作成した。作成にあたっては3Dプリンターを用いてマイクロドライブを作成し、バンドル間距離が精密に設定できるようにした。そして海馬と線条体にそれぞれ8テトロードずつ、合計16本のテトロードを刺入した。電極痕跡を確認し、両バンドルから降ろしたテトロードがそれぞれ線条体と海馬に達していた。線条体は脳内において広い範囲に広がっているが、そのなかでも先行研究で時間知覚についての報告がある背内側線条体(正中線から1.8 mm程度側方)を目的領域としている。今後はそれぞれの領域で既に複数個体から記録されている個々の神経細胞の発火と行動の連関の詳細な解析に加え、海馬と線条体の2領域間の脳波の連関についても解析し、脳波レベルでも時間経過と相関した持続的な活動が見られるかを検証する。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題においては既に、ラットを用いた行動課題の構築、電気生理記録装置の改良、心拍制御機構の構築のすべての要素が完了した。更に現時点までに5分にわたる経過時間依存的な神経活動も複数例記録に成功している。今後はまず、この神経活動が実際に経過時間のみに依存するのか、または行動面での周期性(餌場付近の滞在率の変化や、頭部の向きなど)を反映しているのかを詳細な解析によって検証していく予定である。また本課題は5分おきに自動的に報酬が提示されるため、動物にとっては能動的に計時をする必要は必ずしも無い。したがって動物が時間の流れを知覚していることを別の条件で示す必要があると考えている。そこでランダムに報酬提示を欠落させる試行を導入する予定である。この条件下においてラットは報酬が提示されないことを知覚し、5分経過後に行動や神経活動に何らかの変化が生じると考えられる。例えば5分周辺で特異的に餌場を確認する頻度が高くなっていることが示されれば、ラットは5分を知覚し実際に計時していることが強く示唆される。更に5分の時間長を8分に延長することで、5分経過時に見られていたような行動が次第に8分付近で見られるようにシフトし、併せて経過時間依存的な神経活動も5分から8分にわたる変化へと徐々に変化していくと考えている。このような条件で動物が実際に時間知覚を行っていることを示したのちに、心拍刺激による体感時間変化の有無についての検証実験を行う予定である。ラットの平常時の心拍数は6.5~7 Hz程度である。もし心拍数と体感時間速度との間に関連がある場合は、心拍制御中の心拍数(8-14 Hz)と平常時の心拍数との差が大きいほど、経過時間依存的な行動や神経活動の変化速度により顕著な差異が見られるはずである。これらの実験を通して、生物の中に流れる時間が個体内の状態に依存して揺らぐという仮説を検証する計画である。
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Research Products
(9 results)