2016 Fiscal Year Annual Research Report
角度依存光電子スペクトル線二色性による強相関希土類4f電子状態対称性の決定
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16J05334
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
金井 惟奈 大阪大学, 基礎工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 強相関電子系 / 光電子分光 / 放射光 / 光物性 / 4f軌道対称性 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまで我々は正方晶・立方晶Yb化合物の内殻光電子スペクトルの線二色性(LD-HAXPES)の観測に成功し、結晶場効果を取り込んだイオンモデル計算により4f基底状態対称性の決定に成功してきた。このLD-HAXPESは電荷分布の球対称からのずれに起因するため、Yb系だけでなく他の希土類化合物についても観測されうる。しかし、Ce化合物においてはCe内殻光電子スペクトルの低結合エネルギー側に4f2終状態の効果が現れるために、Ce3+(4f1終状態)イオンモデルによる理論計算を用いた解析の妥当性が危ぶまれることが考えられる。そこで、基底状態が既知であるCeB6とCeAl2を用いて立方晶Ce化合物におけるCe内殻光電子スペクトル線二色性が観測の有無、およびイオンモデルの適用の可否について検証を行った。 SPring-8 BL19LXUにて測定したCeAl2とCeB6の線二色性は異なる形状を示しており、前者はΓ7、後者はΓ8の理論計算結果に近く、4f2終状態の影響に依らずイオンモデルを適用した基底状態決定がCe系でも可能であることが実証された。この結果については現在投稿論文にまとめている。 また、イオン模型による理論計算を行うと、4f光電子スペクトルにおいても内殻光電子スペクトルと同様に線二色性が観測されることが期待されており、実際にSPring-8 BL27SUにおいてYb、Sm化合物の4f光電子スペクトル線二色性の観測を行った。いずれの物質においても観測された4f光電子スペクトル線二色性はイオンモデル計算によって予測されたものよりも小さく、4f光電子スペクトル線二色性のイオンモデルによる解析が適切ではないことが示唆された。この結果については既に学会発表を行い、プロシーディング論文にまとめ、受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では既に内殻光電子スペクトル線二色性が観測されているCe,Yb,Smの化合物の中から、結晶場による4f準位の分裂幅が比較的小さいものを選び、LD-HAXPESの計算をイオンモデルに結晶場を取り込んで行うことで4f基底状態及び励起状態の決定を試みることが今年度の予定であった。このうち、立方晶Ce化合物のCe 3d5/2スペクトルの線二色性の観測に成功し、Ce化合物では4f2終状態の影響によってイオンモデルによる理論計算による解析が危ぶまれていたが、この適用が可能であることが判明した。 また、4f基底状態対称性の決定にまでは至らなかったものの、正方晶SmCu2Si2のSm 3d5/2内殻光電子スペクトル線二色性およびSm 3d-4fX線吸収スペクトル線二色性の観測に成功しており、Sm化合物の基底状態決定の報告をすべく論文化に向けて解析を進めている段階である。 さらに、イオンモデルによる理論計算によって線二色性の観測が期待されていた希土類4f光電子スペクトルについて実際に測定を行うことができた。この結果から、4f光電子スペクトル線二色性の解析にイオンモデルによる理論計算を適用することができないことが判明し、内殻スペクトルを測定することの重要性がより明確になった。 当初の予定であった励起状態の決定にこそ至らなかったものの、Ce化合物における4f2終状態の問題や4f光電子スペクトル線二色性へのイオンモデルによる理論計算の不適合などが判明し、予定と順序は入れ替わるものの概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はCe,Yb化合物のうち、結晶場による結晶場による4f準位の分裂幅が比較的小さいものを選び、LD-HAXPESの計算をイオンモデルに結晶場を取り込んで行うことで4f基底状態のみならず、励起状態の決定を試みることを第一目標とする。そのため、測定温度をより安定化させるために試料の温度調整システムの改良を行う。具体的には、試料の温度調整用のヒーターの出力を実験ハッチ外からも常時モニターするシステムを構築し、試料の急激な温度変化を防ぐ。 また、内殻光電子スペクトル線二色性の観測を行う上で、偏光移送子による偏光度上昇は最も重要な課題となっている。そのため、年度初めに偏光移送子および移送子を設置する装置の改良を行い、内殻光電子スペクトル線二色性観測実験の装置準備の時間を短縮できるよう努める。具体的には、移送子を設置する装置のモーターによる制御精度を向上させると同時に予備の偏光移送子の準備によって偏光移送子の損傷、紛失に備える。 その他にも、さらなる測定効率向上のために光の真空経路の延長や試料観察用カメラの改良などを行う。 次年度はより4f電荷分布対称性が複雑であるDyやHo,Erなど今まで内殻光電子スペクトルの測定が行われてこなかった希土類化合物で内殻光電子スペクトル線二色性が観測されるか検証を行うことも目標とする。これらの解析をより正確かつ迅速に行うため、新たな計算機システムを導入する予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Linear dichroism in 3d core-level and 4f valence-band photoemission spectra of strongly correlated rare-earth compounds2017
Author(s)
Y. Kanai, T. Mori, S. Naimen, K. Yamagami, S. Kitayama, H. Fujiwara, A. Higashiya, T. Kadono, S. Imada, T. Kiss, A. Tanaka, T. Muro, K. Tamasaku, M. Yabashi, T. Ishikawa, F. Iga, T. Ebihara, F. Honda, Y. Onuki, A. Sekiyama
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Journal Title
Journal of Electron Spectroscopy and Related Phenomena
Volume: 印刷中
Pages: 印刷中
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] 立方晶Ce化合物における4f基底状態を反映した 内殻光電子スペクトル線二色性の観測2017
Author(s)
金井惟奈, 山神光平, 藤岡修平, 濱本諭, 藤原秀紀, 木須孝幸, 田中新, 玉作賢治, 矢橋牧名, 石川哲也, 東谷篤志, 門野利治, 今田真, 伊賀文俊, 海老原孝雄, 関山明
Organizer
日本物理学会第72回年次大会
Place of Presentation
大阪大学(大阪府・豊中市)
Year and Date
2017-03-17 – 2017-03-20
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[Presentation] 内殻吸収および内殻光電子スペクトル線二色性による 正方晶SmCu2Si2の4f基底状態対称性の観測2017
Author(s)
金井惟奈, 内免翔, 山神光平, 藤岡修平, 藤原秀紀, 木須孝幸, 田中新, 室隆桂之, 玉作賢治, 矢橋牧名, 石川哲也, 東谷篤志, 門野利治, 今田真, 大貫惇睦, 関山明
Organizer
第30回日本放射光学会年会・放射光科学合同シンポジウム
Place of Presentation
神戸芸術センター(兵庫県・神戸市)
Year and Date
2017-01-07 – 2017-01-09
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[Presentation] 強相関希土類化合物の希土類 3dおよび4f 光電子スペクトル線二色性による異方的4f電荷分布の観測2016
Author(s)
金井惟奈, 森健雄, 内免翔, 山神光平, 藤岡修平, 藤原秀紀, 東谷篤志, 門野利治, 今田真, 木須孝幸, 田中新, 室隆桂之, 玉作賢治, 矢橋牧名, 石川哲也, 伊賀文俊, 海老原孝雄, 本多史憲, 大貫惇睦, 関山明
Organizer
日本物理学会2016年秋季大会
Place of Presentation
金沢大学(石川県・金沢市)
Year and Date
2016-09-13 – 2016-09-16
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[Presentation] Linear Dichroism in 3d core-level and 4f valence-band photoemission spectra of strongly correlated rare-earth compounds2016
Author(s)
Y. Kanai, T. Mori, S. Naimen, K. Yamagami, S. Kitayama, H. Fujiwara, A. Higashiya, T. Kadono, S. Imada, T. Kiss, A. Tanaka, T. Muro, K. Tamasaku, M. Yabashi, T. Ishikawa, F. Iga, T. Ebihara, F. Honda, Y. Onuki and A. Sekiyama
Organizer
39th International Conference on Vacuum Ultraviolet and X-ray Physics
Place of Presentation
チューリッヒ(スイス)
Year and Date
2016-07-03 – 2016-07-08
Int'l Joint Research
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