2016 Fiscal Year Annual Research Report
泌乳による繁殖中枢抑制を担うリガンド・受容体の探索とKiss1エピジェネティクス
Project/Area Number |
16J05404
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
杉本 有沙 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 泌乳 / キスペプチン / 吸乳刺激 / TIP39 / ソマトスタチン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は泌乳中の繁殖能力低下による受胎率低下等の課題解決に資する基礎的知見の獲得に向け、泌乳中の繁殖機能抑制を担う中枢メカニズムの解明を目的とする。哺乳類の繁殖中枢であるキスペプチンニューロンに着目し、泌乳期キスペプチン遺伝子Kiss1の発現抑制メカニズムを解明するため、昨年度は次の実験を遂行した。 ①泌乳期Kiss1発現抑制のエピジェネティック制御機序の解明に向けたキスペプチンニューロン可視化ラットの作出と検討 泌乳期特異的にキスペプチンニューロンで遺伝子発現量が変化するエピジェネティック制御因子の探索を行うため、キスペプチンニューロン可視化ラットの作出を目指し実験を行った。所属研究室においてキスペプチンニューロン特異的タモキシフェン誘導性Creリコンビナーゼ発現ラットを作出した。Creリコンビナーゼ依存的に黄色蛍光タンパクVenusを発現するラットと交配させて得られた産仔に、タモキシフェンを腹腔内投与することにより、Venus蛍光によりキスペプチンニューロンが可視化されるか検討を試みている。 ②TIP39-ソマトスタチンが泌乳期生殖機能抑制に関与する可能性についての検討 TIP39およびソマトスタチンが乳仔からの吸乳刺激を仲介し、上位から視床下部弓状核キスペプチンニューロンに抑制性シグナルを伝達するという仮説を立て、実験を行った。昨年度は、泌乳期特異的に脳の吸乳刺激中継地におけるTIP39遺伝子、並びに弓状核におけるTIP39受容体遺伝子の発現量が劇的に増加したこと、さらに抑制性Gタンパク共役型受容体をもつソマトスタチン遺伝子が弓状核に多く発現し、TIP39受容体と発現領域が重複することを確認した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、次に示す二つの目的に向けた実験の進捗具合から、おおむね順調に進展していると考えられる。 ①泌乳期Kiss1発現抑制のエピジェネティック制御機序の解明 吸乳刺激によるKiss1遺伝子発現抑制を制御するエピジェネティック制御因子を探索するため、泌乳期キスペプチンニューロン可視化ラットからのキスペプチンニューロンの単離を目指し実験を行った。昨年度はキスペプチンニューロン特異的タモキシフェン誘導性Creリコンビナーゼ発現ラットを作出した。Creリコンビナーゼ依存性Venus発現ラットと交配させて得られた産仔に、タモキシフェンを腹腔内投与し、Venus蛍光によりキスペプチンニューロンが可視化されるか検討を試みている。したがってエピジェネティック制御因子を探索するための準備は順調に進んでいる。 ②吸乳刺激をキスペプチンニューロンへ伝達するリガンド・受容体の探索 TIP39及びソマトスタチンが、吸乳刺激を仲介し弓状核キスペプチンニューロンへ伝達するという仮説を立て、実験を行った。昨年度において、泌乳期特異的にTIP39及びTIP39受容体の遺伝子発現量が吸乳刺激の中継地で増加すること、ソマトスタチン及びその受容体遺伝子が弓状核で多く発現することを確認した。またTIP39受容体とソマトスタチンの遺伝子発現領域が重複することを確認した。よって、泌乳期にTIP39-ソマトスタチンが神経経路を形成し、Kiss1発現抑制に関与する可能性が示された。また上記二つ以外のKiss1発現に関与しうる因子を探索するため、キスペプチンニューロンに発現する遺伝子群リスト(RNA seqによって既に取得済みの)から泌乳や生殖機能への関与が報告されている遺伝子の選抜を着々と行なっている。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、以下二つの推進方策を予定している。 ①泌乳期Kiss1発現抑制のエピジェネティック制御機序の解明 本年度にキスペプチンニューロン可視化ラットを作出し、泌乳中のラットから可視化されたキスペプチンニューロンを単離し、ニューロンに発現するmRNAからcDNAライブラリを作成する。ヒストン修飾因子や転写因子に着目したPCRアレイを行い、泌乳期のKiss1発現抑制に関与する候補因子を選別する予定である。なお、細胞単離の実験系は所属研究室においてすでに確立されているため、動物ができ次第、可視化キスペプチンニューロン単離実験を行う予定である。 ②吸乳刺激をキスペプチンニューロンへ伝達するリガンド・受容体の探索 TIP39及びソマトスタチンが、吸乳刺激を仲介し弓状核キスペプチンニューロンへ伝達するという仮説を検証するため、TIP39受容体遺伝子とソマトスタチン遺伝子が泌乳ラット弓状核において共発現する可能性を検討する。また同様に泌乳ラット弓状核において、ソマトスタチン受容体遺伝子がキスペプチンニューロンに発現する可能性を検討する。生理学的に、ソマトスタチンが生殖機能抑制に関与する可能性を検証するため、ソマトスタチン受容体アンタゴニストを弓状核に投与し、生殖機能の指標である血中黄体形成ホルモン濃度への影響を検討する予定である。また①と同様にキスペプチンニューロン可視化ラットを用い、キスペプチンニューロンに発現する遺伝子群リスト(RNA seqによって既に取得済みの)から選抜した、泌乳や生殖機能への関与が報告されている遺伝子について、泌乳中のキスペプチンニューロンにおいてそれらの遺伝子発現量の変化をリアルタイムPCRによって解析する。変化が確認された遺伝子について、さらに吸乳刺激による Kiss1 発現抑制への関与を検討する。
|