2017 Fiscal Year Annual Research Report
新規な高周期14族元素間多重結合化合物の合成とその小分子活性化反応の検討
Project/Area Number |
16J05501
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
菅原 知紘 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ジゲルミン / 末端アルケン / 環状ジゲルメン / カルコゲン化反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、新しい高周期14族元素間多重結合化合物を合成し、その性質解明の知見を基に、小分子活性化反応の検討を目的とした。本年度は、新規なゲルマニウム間三重結合化合物であるジゲルミンとオレフィンとの反応から生じた、環状ゲルマニウム間二重結合化合物「環状ジゲルメン」の特異な性質に着目し、その性質や反応性に関する詳細な調査を行った。 前年度我々は、環状ゲルマニウム間二重結合化合物である1,2-ジゲルマシクロブテンを安定な化合物として合成・単離することに成功している。合成された化合物は、ゲルマニウム間三重結合化合物であるジゲルミンへのエチレンの付加反応によって得られており、その特異な性質は新規な含ゲルマニウム化合物合成の際のビルディングブロックへの応用も期待されている。そこで、用いるアルケンをエチレンから末端アルケンに変えてその反応性を精査した結果、エチレンの場合と同じく1,2-ジゲルマシクロブテンが生成する一方で、加熱により生成物からアルケンが可逆的に脱離するというエチレンで見られなかった新規な反応性を見出すことに成功した。高周期14族元素間多重結合化合物について、小分子との付加反応は数多く報告されているものの、脱離反応の報告例は少なく、今回の結果は小分子変換反応を設計する上で重要な指針となることが期待される。 また、ゲルマニウム間二重結合は高いHOMOレベルおよび低いLUMOレベルに起因し、その酸化還元プロセスに基づく小分子活性化反応が効率的に進行すると考えられる。この点、1,2-ジゲルマシクロブテンは、環骨格に組み込まれたジゲルメンとして興味深い化学種である。そこで、このジゲルメンの酸化に伴う反応プロセスの検討として、各種単体カルコゲンとの反応を行ったところ、反応基質に応じた様々な含ゲルマニウム/カルコゲン化合物の合成・単離に成功し、その性質を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
実験計画では、高周期典型元素の性質を活かして、遷移金属元素を用いることのない新規な多成分連結小分子活性化反応を開発し、最終的には小分子活性化につぐ分子変換を見出すことを目的としていた。本年度は、ゲルマニウム間三重結合化合物であるジゲルミンが触媒として機能することでアリールアセチレンの三量化反応が進行するという前年度に見出した典型元素触媒反応において、鍵中間体とされる環状ゲルマニウム二重結合化合物「環状ジゲルメン」の性質解明と簡便に別途合成する手法を確立する予定であった。 対象化合物の性質・反応性の調査に関しては、かさ高いアリール基を活用することで、新たな環状ゲルマニウム間二重結合化合物の合成に成功し、X線結晶構造解析ならびにNMR等の分光学的測定によりその物理的性質を明らかにした。具体的には、ジゲルミンと末端アルケンとの反応により、環状ジゲルメンの一つである1,2-ジゲルマシクロブテンを合成し、温度可変NMRによる追跡実験を行ったところ、生じた生成物を加熱することで容易にアルケンの脱離反応が進行し、原料であるジゲルミンと対応するアルケンが再生成することが明らかとなった。 上記のように環状ジゲルメンに関して、当初の予想と異なる特異な性質があり、高周期14族元素間多重結合化合物から小分子が可逆的に脱離することを見出した点で、今回の結果は小分子変換反応を設計する際の重要な指針となることが期待され、本研究課題の進捗状況は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画の段階では、高周期元素間多重結合化合物を用いた定量的小分子の変換反応の構築・その触媒的利用を行う予定であった。研究実績の概要と達成度で述べたように、我々はすでにジゲルミンが典型元素触媒として機能することを見出しており、一定の成果を上げることができている。この知見を実用的に用いるにあたり考えられる問題点として、ジゲルミンを安定な化合物として合成・単離するために必須である立体保護基の合成、準備に手間のかかる点と、合成したジゲルミンが空気中で取り扱えないほど不安定であるため、汎用性に乏しいという点が挙げられる。これまでの調査から、ジゲルミンが触媒として機能する際、環状ジゲルメンが鍵中間体として生成することが示唆されており、非常に不安定なジゲルミンに替えて、環状ジゲルメンを別途簡便に合成する手法を開発すれば、これらの問題点を改善できるとともに、他の小分子変換反応への応用も可能ではないかと考えた。そこで今後は、1,2-ジゲルマシクロブテンといった環状ジゲルメンに関して、ジゲルミンを経由しない合成手法で簡便に合成・単離する方法を確立し、新規な触媒反応の開発を予定している。 また、環状ジゲルメンはその特異な性質から新規な含ゲルマニウム化合物合成の際のビルディングブロックへの応用も期待されるため、新規な結合様式を有する含ゲルマニウム化合物の合成も同時に行う予定である。
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Research Products
(11 results)