2016 Fiscal Year Annual Research Report
スピンダイナミクスと熱スピン注入の融合によるワイヤレス・スピン流生成とその応用
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16J05621
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
山野井 一人 九州大学, 理学研究院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 強磁性共鳴 / 強磁性共鳴ヒーティング効果 / 熱スピン注入 / 動的スピン注入 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究プロジェクトで提案するワイヤレス・スピンデバイスの開発には、熱励起スピン流の高効率生成が必要不可欠である。そこで、これまでに開発した強磁性共鳴時の強磁性金属の温度測定手法を用いて、各種強磁性金属の温度の精密測定を実施し、熱スピン注入に適した強磁性金属を探索した。その際に、照射するマイクロ波のパワー依存性や角度依存性などから、効率的な発熱手法も開発した。共鳴時の発熱量は、照射するマイクロ波のパワーと共に増大した。更に、低ダンピング定数を有する強磁性金属ほど、発熱効率が増大する結果が得られた。そこで、これらの結果を考慮し、低ダンピング定数を有する強磁性合金CoFeB に高強度なマイクロ波を照射した際の磁性加熱効果による発熱量を評価したところ、最大で15 K 近くもの温度上昇が観測された。この結果は、先行研究と比較して、約1.5 倍程度の発熱量が得られており、低ダンピング強磁性金属を用いることで発熱量の増大に成功した。 上記で得られた研究成果を熱スピン注入技術に適用して、CoFeB と非磁性金属Ta からなる積層構造を作製し、マイクロ波を照射した際のスピン流の生成強度の磁場依存性を逆スピンホール電圧から評価した。得られた逆スピンホール電圧の信号強度は、高ダンピング定数を有する強磁性体とTa の積層構造での信号強度に比べて、明らかに増大した。この結果は、低ダンピング定数を有する強磁性金属が本プロジェクトで提案するワイヤレス・スピンデバイスに適していることを示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトで提案するワイヤレス・スピンデバイスの実現に向けて、初年度である平成28年度は熱スピン注入の高効率化を目指し、下記の研究成果を得た。 1. 低ダンピングを有する強磁性金属を用いることで、磁性加熱効果による強磁性体の発熱量が向上した。更に、得られた研究成果を熱スピン注入技術に適用することで、生成される熱励起スピン流の高効率化を達成した。 2. 熱スピン注入の生成強度は、強磁性体と非磁性体の接合界面での温度勾配に比例することが予測される。そこで、素子構造を改良することで、より大きな熱勾配が形成できるデバイスを作製した。実際に、改良したデバイスと先行研究での素子構造による実験結果を比較したところ、同様の物質を使用したにも関わらず、今回作製したデバイスの方が、スピン流の生成強度が5倍近く増大した。 次年度は、これまでに得られた高効率熱スピン注入技術をワイヤレス・スピンデバイスに適用し、ワイヤレス・スピンデバイスの実現を目指す。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度に強磁性共鳴を駆動力とした熱スピン注入の高効率化に成功しているが、素子界面やマテリアルの最適化により、生成効率の更なる向上が期待できる。そこで、次年度も前年度に引き続き、ワイヤレス熱励起スピン流の更なる高効率化を目指す。 上記の高効率化と並行して、これまでに達成した高効率熱スピン注入技術とナノ磁性体における共鳴特性の周波数選択技術を組み合わせた周波数選択的ワイヤレス・スピンデバイスを試作し、選択的スピン流生成技術の動作を実証する。その後、得られた純スピン流によるワイヤレス磁化反転やワイヤレス自励発信などが可能であることを確かめる。
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Research Products
(8 results)