2016 Fiscal Year Annual Research Report
Investigation of the anti-inflammatory action of anti-emetic drugs in enteritis
Project/Area Number |
16J05803
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
三河 翔馬 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
|
Keywords | アポトーシス / セロトニン3受容体 / 炎症 / 消化管 / 腸炎 / 制吐剤 / 抗癌剤 / 骨髄由来免疫細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、制吐剤の抗炎症作用とそのメカニズムを明らかにし、制吐剤が持つ新規抗炎症機構による新たな治療戦略確立の基盤を構築することを目的としている。 本年度は、抗がん剤である5-フルオロウラシル(5-FU)投与による小腸アポトーシス誘導モデル(以下、5-FUモデル)を用いて、制吐剤として臨床で使用されているセロトニン3A受容体(5-HT3AR)阻害薬による抗炎症・抗アポトポーシス作用機序について解析し、以下の知見を得た。 (1)5-FUモデルにおいて、5-HT3AR阻害薬は小腸上皮細胞のアポトーシス誘導を有意に減少させた。また、5-HT3AR作動薬はアポトーシス誘導を増加させた。(2)5-HT3AR欠損マウスを用いて5-FUモデルを作成したところ、アポトーシス細胞の減少が認められた。以上より、小腸において5-HT3ARの活性化は5FUによるアポトーシス誘導に関与していることが明らかになった。 次に、小腸においてアポトーシス増強作用に関与している5-HT3ARを発現する細胞の同定に着手した。野生型マウスと5-HT3AR欠損マウスの骨髄を入れ替えることで、骨髄由来血球系細胞以外、あるいは骨髄由来血球系細胞のみ5-HT3ARを欠損させたキメラマウスを用いて解析したところ、(3)骨髄由来の血球系細胞は5-HT3AR活性化によるアポトーシス増強作用には関与しないことが明らかになった。 今後、消化管において5-HT3ARが発現している可能性が示唆されている小腸上皮細胞と神経細胞の可能性について検討する。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は5-HT/5-HT3ARシグナルがアポトーシスの調整に関与していることを、作動薬・阻害薬および5-HT3AR欠損マウスを用いることで、明らかにした。また、骨髄移植モデルを用いることで、その標的細胞が骨髄由来の免疫細胞ではないことを明らかにした。 この成果を日本薬理学会にて『Acceleration of 5-HT/5-HT3AR signaling for 5FU-mediated intestinal apoptosis.(5-HT/5-HT3AR signalingは5-FUによるapoptosis誘導を増強する)』という題名で口頭発表した。また、台湾で行われた東南アジア獣医学大学研究シンポジウム(The 8th Joint Symposium on Veterinary Research among Universities of Veterinary Medicine in East Asia and Pacific)に東京大学の代表として参加し、口頭発表を行い、海外の研究者と意見交換を行った。 アポトーシス誘導に5-HT3ARが関与しているという報告はこれまでになく、この詳細な分子機構の解明は5-HTシグナルによる新しいアポトーシス増強経路を示す、病態生理学的に重要な知見となる。またアポトーシス誘導経路には炎症と共通する部分も数多くあることから、ほかの炎症疾患に5-HT/5-HT3AR経路が関与する可能性も示唆する。すなわち、制吐剤である5-HT3AR阻害薬は抗アポトーシスならびに抗炎症作用などによる異なる疾患に対する適用拡大の可能性(ドラックリポジショニング)が考えられ、本研究の目的にも合致している。今後、5-HT3ARを発現する標的細胞を同定するなどし、分子機構の解明を目指す。
|
Strategy for Future Research Activity |
最終年度は、昨年度から継続している、小腸における5-FUによるアポトーシス誘導を増強する5-HT3ARを発現している標的細胞の同定を行い、研究成果をまとめて論文として公表することを第一の目標とする。 そこで、標的候補である上皮細胞ならびに神経細胞の5-FUによるアポトーシス誘導増強作用の関与について解析する。 まず上皮細胞に関しては、近年報告された腸管上皮幹細胞を用いた腸オルガノイドを用いて実験を行う予定である(Sato et al, Nature, 2009.)。この腸オルガノイドを用いた実験系で、すでに5-FUなどのアポトーシス誘導物質を共培養することでアポトーシスを評価する方法が報告されており(Grabinger et al, Cell Death and Disease, 2014.)、この方法を野生型マウスおよび5-HT3AR欠損マウスを用いて行うことで、上皮細胞の5-HT3ARがアポトーシスに影響するかを明らかにできると考えている。 一方、神経細胞に関しては、5-HT3ARを発現する消化管神経の発現分布の解析と、その神経から放出産生される神経伝達物質や神経ペプチド類の可能性について形態学的手法を用いて解析する予定である。すでに5-HT3ARにHA-tagを遺伝子導入したマウスとGFPを遺伝子導入した二種類の5-HT3ARを標識するレポーターマウスを得ることができており、これらのマウスを用いて解析を進める。
|