2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J05827
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Research Institution | Okazaki Research Facilities, National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
西澤 宏晃 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(岡崎共通研究施設), 計算科学研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 金属含有生体分子 / 分子動力学 / QM/MM / DFTB / MD |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度に開発を行った密度汎関数強束縛(DFTB)法を基とした,量子・古典混合(QM/MM) 計算手法をアミロイドβの1番目から16番目の残基(Aβ(1-16))からなる分子と亜鉛イオンを含む系に対して適用した。Aβ繊維はアルツハイマー病の原因物質と考えられているが,その中でもAβ(1-16)はアミロイド繊維の核生成過程で重要であることが報告されている。Aβタンパク質は銅や亜鉛などの金属イオンの存在下で,その凝集が促進されることが実験により知られており,ヒスチジン残基やチロシン残基が金属イオンと結合すると考えられている。計算を用いた検討もなされているが,あらかじめ実験結果を再現するようなパラメーターを用いた検証に限られている。この系に対して本研究課題で開発した手法を用いることで実験結果のサポートをし,Aβ繊維形成に関してより深い知見を得ることが可能になると考えられる。また実験結果の再現を行うことが可能であるとすれば,本手法が生体分子への適用に対して妥当なものであるかどうかを確認することが可能であると考えられる。この系に対して,MM法,QM/MM法に基づくMDシミュレーションを用いて検討を行った。MM-MDシミュレーションでは,実験で報告されているヒスチジン残基やチロシン残基は亜鉛イオンとの相互作用による安定化はほとんど得られなかった。一方,本研究課題で開発したQM/MM法に基づくMD計算では亜鉛イオンとヒスチジン残基の接近を確認できた。またDFTB法で得られる電荷分布を確認すると,これらが結合していることが分かった。これは実験でも観測されている亜鉛イオンとヒスチジン残基(またはチロシン残基)が結合しているという事実と一致しており,本手法が生体分子の化学反応を伴うシミュレーションおいて,有用であるということを示すことができたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数値計算に関しては当初の計画であったα-ラクトアルブミン(α-LA)分子への適用がまだ行われていない。本研究課題で開発している理論は生体分子への適用例がなく,本手法で得られるものがどの程度信頼を得られるものかを初めに検証する必要がある。したがって,計算により得られた結果と比較することができないα-LA分子への適用は現状行うことができない。そこで,本理論の信頼性を検証するために,受入研究室で研究が盛んに行われているアミロイドβ分子に対して適用を行っている。本理論を計算結果と照らし合わせて得られた知見は,未知の系への適用を行う際に有用であると考えられる。本研究に関しては,現在論文投稿の準備中である。 また,プログラム開発に関しては順調に進行している。平成28年度に開発した量子・古典混合計算を高速に計算する手法を用いて,分子動力学計算を行えるようにした。対象とした分子は原子数が大きく,従来の量子化学理論では取り扱いが困難であったが,短い時間でシミュレーションを完了することができるようになった。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要で示したアミロイドβ(Aβ)に対する検討は,本研究課題で対象としているα-ラクトアルブミン(α-LA)へ適用することが妥当であるかどうかを検証するものである。しかし,Aβ分子はその繊維がアルツハイマー病の原因物質と考えられており,計算科学を用いた検討により実験結果のサポートをすることはそれ自体にも意義があると考えられる。そこでまず現在得られているAβ分子と亜鉛イオンを含む系のシミュレーションを用いて,実験結果で得られている現象に対して電子状態を用いた解析を行う。この解析で得られた知見を下にα-LA分子への適用を行っていく。一方,Aβ分子と亜鉛イオンを含む系に対して複数のシミュレーションを行った結果,亜鉛イオンが量子論的に取り扱っている水分子の表面に偏る傾向があることも確認された。これは量子・古典混合 (QM/MM) 計算を用いた結果,QM領域とMM領域での取り扱いの違いにより,境目が一種の表面のような電子状態になっていることが原因ではないかと考えられる。これが正しい現象を表しているのかを確認するために,より多くの水分子をQM領域として取り扱い検証を行う必要がある。 計算プログラムに関しては次年度も拡張していく。現在,一部のユーザーに向けて公開を行っており,本手法の精度検証に関して共同研究も行っていく予定である。今後は大規模計算機に向けた並列化を優先的に行う。さらに高速化,ユーザビリティの向上などを行い,一般ユーザーに向けた公開を目指してプログラム作成を遂行していく。
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Research Products
(9 results)