2016 Fiscal Year Annual Research Report
鉱物中の水素位置で読み解くマントルダイナミクス:鉱物物性の結晶化学的理解に向けて
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16J05854
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
櫻井 萌 岡山大学, 惑星物質研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 上部マントル / 無水鉱物 / FTIR / 水素位置 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、マントルダイナミクスの解明に向け、水に起因した物性変化を結晶化学原理により体系的に理解することを目的とし、高圧実験を主とした鉱物中の水素位置の決定を目指している。 上部マントルの主要構成鉱物であるカンラン石の水取り込まれ方に関する研究は数多く行われており、今までに実験的研究および理論的研究によって示唆された。しかし、カンラン石中の水素配置については未だ統一見解が得られていない。そこで、本年度、高圧下での鉱物中の水素位置に与える酸素雰囲気の効果を調べるために以下の研究を行った。 様々な条件下(e.g. 含水量、酸素雰囲気、圧力)で合成された含水試料のIR観測は、鉱物中の水素位置を推定するのに非常に有用である。本研究では特に酸素雰囲気に注目し、同水雰囲気下で酸素雰囲気を変えたときに、カンラン石中の含水量はどのように変化するかを明らかにした。 結果、酸素雰囲気と含水量の関係には、大きな正の相関があることが分かった。Mo bufferとRe bufferでは含水量に10倍以上の開きがあった。Bai and Kohlstedt (1992)では300MPa以下の低圧で同様の実験を行っており、飽和含水量と酸素雰囲気の間には依存性は無く、飽和含水量は水雰囲気のみによって決まると報告している。しかしながら、本実験で明らかになったように、高圧下では、酸素雰囲気依存性が強く観測されたため、沈み込み帯といった深さ方向で大きく酸素雰囲気の変化していく領域では、同じ水雰囲気下でも酸素雰囲気の効果により含水量が大きく異なり、鉱物物性に大きな影響を与えることを示唆した。また、吸光度は軸方向で大きな差があり、a軸方向に平行に測定した方が、強い吸収が見られ、OH結合の伸縮振動は、b軸よりはa軸方向に沿った方向を向いていると考えられる。水素位置の特定には偏光光の利用が非常に有益であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地球の上部マントルは、主にカンラン石から構成されている。水(H+)がカンラン石の物理的性質にどのように影響するかを理解するために、オリビンの水素位置の知識は最も重要な情報の1つであり、水素位置を知ることは、鉱物物性の理解の本質であり、マントルレオロジーの解明に極めて重要である。そこで、本年度は、特に酸素雰囲気に注目し、同水雰囲気下で酸素雰囲気を変えたときに、カンラン石中の含水量はどのように変化するかを明らかにした。 実験にはYale大学に設置されている川井型マルチアンビル高圧発生装置を用いた。圧力条件は3 GPa、温度条件は1200℃である。水素について閉鎖系を達成するために、AuPdカプセルを使用した。また、酸素雰囲気を制御するため、Mo/Ni/Reカプセルを使用した。出発物質には、事前に結晶方位を測定し円柱上に切り出し、c面が表面に出るよう成型したSan Calros olivineの単結晶を使用した。回収試料はFT-IRでa軸・b軸それぞれに沿った方向で測定し、偏光した光を使用した。 結果、酸素雰囲気と含水量の関係には、大きな正の相関があることが分かった。本研究より、高圧下では、酸素雰囲気依存性が強く観測されたため、沈み込み帯といった深さ方向で大きく酸素雰囲気の変化していく領域では、同じ水雰囲気下でも酸素雰囲気の効果により含水量が大きく異なり、鉱物物性に大きな影響を与えることを示唆した。また、吸光度は軸方向で大きな差があり、a軸方向強い吸収が見られ、OH結合の伸縮振動は、b軸よりはa軸方向を向いていると考えられる。今までに報告されているカンラン石中の水の多くの研究では、単結晶試料でも偏光光を用いずにIRスペクトルを測定しているものが多いが、水素位置の特定には偏光光の利用が非常に有益であることを示した。 このことから、研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度後半、本所属研究機関に真空FTIRが納入予定である。そこで、29年度前半には、無水鉱物高圧その場IR観察に向けた水を含んだ単結晶マントル鉱物の合成を行う。これは、特に今後予定している電気伝導度測定のためにも有益である。電気伝導度測定にはmmサイズの試料が必要となるため、まず、高温高圧条件下で水が均質に分布した低含水量の単結晶無水マントル鉱物を合成する必要がある。ISEIはこれまでに数多くの鉱物の単結晶合成を行っており、蓄積されたノウハウをもとに、合成条件・セル構成・手法の最適化を図り、質の良い出発物質の合成を行う。 真空FTIR納入後には、単結晶ダイヤモンドアンビルセル(DAC)を用いた高圧その場IR観測技術の確立に重点を置く。技術の確立のために、圧媒体やガスケットを変えて実験を行い、セル構成の最適化を図る。続いて、出発試料の含水量や厚み、大きさを変えて実験を行い、実験条件の最適化を行い、~10 GPaまでの安定的な高圧実験を可能にする。無水鉱物の高圧その場IR観測は例がなく、この1年の研究成果は技術論文として学会発表し、独立して論文にまとめる。
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[Journal Article] Towards a consensus on the pressure and composition dependence of sound velocity in the liquid Fe-S system2016
Author(s)
Keisuke Nishida, Akio Suzuki, Hidenori Terasaki, Yuki Shibazaki, Yuji Higo, Souma Kuwabara, Yuta Shimoyama, Moe Sakurai, Masashi Ushioda, Eiichi Takahashi, Takumi Kikegawa
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Journal Title
Physics of the Earth and Planetary Interiors
Volume: 257
Pages: 230-239
DOI
Peer Reviewed
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