2016 Fiscal Year Annual Research Report
特異的糖鎖分解酵素を用いた植物プロテオグリカンの情報伝達機構の解明
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16J05924
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
吉見 圭永 埼玉大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 植物細胞壁 / 細胞壁多糖 / アラビノガラクタン-プロテイン / エキソ-β-1,3-ガラクタナーゼ / シロイヌナズナ / デキサメタゾン誘導発現系 |
Outline of Annual Research Achievements |
アラビノガラクタン-プロテイン(AGP)は陸上植物に普遍的に存在する細胞外プロテオグリカンである。AGPは様々な生理現象に関与しているが、その複雑な糖鎖の分子機能は未だに分かっていない。本研究では、微生物由来の特異的かつ強力なAGP糖鎖分解酵素、エキソ-β-1,3-ガラクタナーゼ(Il3GAL)を利用し、AGP糖鎖の機能をノックダウンした植物の作出・確立と、この植物を用いたAGP糖鎖の分子機能の解明を目指している。 平成28年度は、Il3GALがデキサメタゾン(DEX)制御下で発現するシロイヌナズナ、DEX::Il3GAL植物に加えて、Il3GALの活性部位に点突然変異を入れたDEX::Il3GAL-PM植物も作出した。まず、作出した植物のAGP糖鎖の分解活性を調べたところ、DEX::Il3GAL植物ではDEX処理時にのみAGP分解活性の上昇がみられ、野生型植物やDEX::Il3GAL-PM植物では活性の上昇がみられないことが確認できた。次に、DEX::Il3GAL植物のAGP量の変化を調べたところ、DEX未処理と比べてAGP量が45%減少していた。一方、野生型やネガティブコントロールのDEX::Il3GAL-PM植物はDEX処理してもAGP量は減少しなかった。また、HPLC分析によりDEX処理したDEX::Il3GAL植物ではAGP糖鎖由来の様々なオリゴ糖が遊離していることが分かった。 さらに、AGP糖鎖の分解の植物への影響を調べたところ、興味深いことに、DEX::Il3GAL植物をDEX処理すると一部の表皮細胞の肥大が見られた。また、植物の細胞壁組成を調べたところ、セルロース量が28%減少していることが分かった。このときセルロース合成酵素の遺伝子であるCESA1, 3, 6の発現は野生型と変わらなかったため、AGP糖鎖がセルロース合成・沈着に影響したと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で確立する実験系において、「植物生体内のAGP糖鎖の分解を制御できるかどうか」をAGP糖鎖分解活性、AGP量、分解で生じたオリゴ糖、という3つの指標から確認できた。また、DEX::Il3GAL-PM植物の作出・解析も進み、本実験系のネガティブコントロールとして利用でるようになった。さらに、生体内のAGP糖鎖分解により胚軸や子葉の表皮細胞が肥大する、新しい表現型を見出し、AGP糖鎖が細胞壁の構築を介した細胞形態の制御に重要であることが示唆された。研究計画当初はAGP糖鎖の分解で遊離したオリゴ糖が病害応答反応を引き起こすと予想していたが、細胞形態や細胞伸長の異常によるストレスが生体防御反応様の応答を引き起こしている可能性がある。今後は、細胞形態の制御に関わるAGP糖鎖の構造や情報伝達メカニズムに着目して研究を進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
植物細胞の形態は細胞壁の構築、主にセルロース微繊維の構築によって制御されている。セルロース微繊維は、細胞内部に存在する表層微小管に沿って合成されるため、表層微小管が細胞形態を決定していると考えられている。平成28年度には、AGP糖鎖の分解が細胞壁のセルロースの減少と細胞形態の異常を引き起こすことが分かり、AGP糖鎖が表層微小管に影響を与えている可能性が示唆された。そこで現在、表層微小管結合因子であるMAP65-1にGFPを融合し、表層微小管を可視化したDEX::Il3GAL植物の作出を進めている。平成29年度は、DEX::Il3GAL植物の表層微小管を観察し、細胞外に存在するAGPがどのように細胞内の表層微小管に影響するのかを調べる。また、平成28年度後半に予定していた、AGP糖鎖分解の不感受性変異体のスクリーニングを平成29年度前半に行い、表層微小管への情報伝達を仲介する因子の特定を進める。
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