2017 Fiscal Year Annual Research Report
Ru(II)-Pheox触媒を用いた脳内病理に関する生理活性物質の全合成
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16J06159
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Research Institution | Toyohashi University of Technology |
Principal Investigator |
中川 陽子 豊橋技術科学大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 不斉反応 / 有機金属触媒 / カルベン挿入反応 / 天然物全合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
医薬品などの不斉中心を含む多官能基性生理活性物質の合成には,高度な立体制御反応の開発と汎用性の高い触媒開発などの基礎研究が必須である。本研究の該当期間では,1)新規Si-H挿入反応、2)不活性な末端C-H結合への不斉官能基化反応および3)DCG-IVとDysibetaine CPa合成を行った。 1)新規医薬品としてケイ素を含む有機化合物は,パーキンソン病の治療薬として注目されているα-silylamineをはじめとする様々な特異な生理活性を示すことが明らかになっており,その効率的な合成経路の開発が急務である。平成28年度には,Ru(II)-Pheox触媒を用いた新規不斉Si-H挿入反応を開発し,2017年3月に研究成果をイギリス化学会誌Chemical Communicationsに報告している。平成29年度は,イギリス化学会主催の国際会議にてその研究成果を発表した(2017年7月)。さらに,ケイ素のみに不斉を誘起する新規Si-H挿入反応を開発し,2017年6月に国際会議論文として報告した。 2)基礎研究開発として不活性な末端C-H結合を用いた不斉反応の開発を開始した。その結果,これまで不活性な保護基とされてきたtert-butyl基の不斉官能基化に初めて成功した。研究成果については2017年9月に第64回有機金属化学討論会にて口頭発表を行った。 3)分子生物学研究で重要なDCG-IVとDysibetaine CPa合成をこれまでは0.1 mmolでの反応を行っていたが, 1 mmolにスケールアップして検討した。その結果、これらの二つの生理活性物質の中間体を,Ru(II)-Pheox触媒を用いた不斉分子内シクロプロパン化反応によって高収率・高立体選択的に合成できることが示された。またこの分子内シクロプロパン化反応について,反応機構の詳細の解析を進め,論文投稿に向けた準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は当初の計画通り,生理活性物質であるDCG-IVとDysibetaine CPaの大量合成法の確立を行い,1 mmolスケールでも99% eeで中間体の不斉合成が可能であることを示した。また,コンフレックス株式会社との共同研究による計算化学を駆使した反応機構解析については,分子内シクロプロパン化反応の反応機構解析だけではなく,金属周りの配位子の動向のシミュレーションや不斉環境を変えた錯体の反応性のシミュレーションなどに研究を発展させている。 加えて,基礎反応開発の面では計画以上の進展が見られた。本研究テーマの中心であるRu(II)-Pheox触媒について更なる触媒適応範囲の拡大を目指し検討を行ったところ,これまで挑戦的課題とされてきた単結合系への不斉カルベン挿入反応へも適用可能であることが示された。研究の結果,ケイ素上だけに不斉を誘起する新規Si-H挿入反応や,tert-butyl基を選択的に官能基化する不斉C-H挿入反応といったこれまでに例のない特殊な新規不斉反応の開発に成功した。 これらの研究成果は今年度,The 4th Asia-Pacific Conference on Life Science and Engineering,25th International Symposium: Synthesis in Organic Chemistry,第64回 有機金属化学討論会など国内外の学会で報告している。また2017年3月にChemical Communicationsに掲載されたSi-H挿入反応に関する論文は,その後,2017年5月にSynfacts誌にてハイライトとして紹介された。さらに平成29年度 立松財団 海外調査研究助成に採択されており,外部資金の獲得という面においても積極的に活動したといえる。以上から,当初の計画以上に進展したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.基礎反応開発: 昨年度は,Ru(II)-Pheox触媒存在下でtert-butyl基を有するジアゾアセトアミド類を反応させた場合,sp3 C-H結合への選択的官能基化反応が進行することを明らかにした。今後,様々な不斉触媒,反応条件の検討を行い,高収率・高立体選択的かつ位置選択的な不斉C-H官能基化反応を確立する。研究成果はJournal of the American Chemical Societyに投稿する。 2.量子化学計算による反応機構解析:Ru(II)-Pheox触媒による不斉分子内シクロプロパン化反応の反応機構解析についての研究をまとめ,Catalystsに投稿する。続いて,配位子交換反応による反応初期の分子の動向のシミュレーションについての研究結果をOrganometallicsに投稿する。さらに,CONFLEXプログラムを用いた配座探索による安定な金属カルベン錯体探索に関する研究成果をまとめ,Organometallicsに投稿する。 3.Ginkgolide Bの全合成:これまでに取り組んできた不安定なジアゾエステル化合物合成と,触媒的不斉シクロプロパン化反応の知識を駆使して,Ginkgolide Bの主要骨格の合成を行う。具体的には,8員環状のジアゾエステル化合物を原料とした分子内シクロプロパン化反応によって,主要骨格の3つの環を直接的に合成する経路について検討を行う。 4.成果報告予定:第113回有機合成シンポジウムにて口頭発表(2018年6月6日),The 2nd Symposium of Metal-Carbene Consortiumにて口頭発表(中国,北京市,2018年6月7日~9日),16th Belgium Organic Synthesis Symposiumにてポスター発表(ベルギー,ブリュッセル,2018年7月8日~13日)
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Research Products
(5 results)