2016 Fiscal Year Annual Research Report
スピン軌道相互作用の強い酸化物と強磁性体の界面におけるスキルミオンの創成と制御
Project/Area Number |
16J06170
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大内 祐貴 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 薄膜・ヘテロ構造 / 磁気スキルミオン / 電界効果 / イリジウム酸化物 / 磁気輸送特性 / 薄膜作製 / 強磁性体 / スピン軌道相互作用 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、エピタキシャル薄膜作製技術を用いることで、単結晶ヘテロ構造薄膜に誘起される磁気スキルミオンについて、その存在条件や制御手法を開拓することで、低消費電力スピン素子としての可能性を明らかにすることを目指している。本年度は、酸化物ヘテロ構造において電界効果による制御とその検出を行った。特に、スピン軌道相互作用の大きな非磁性体SrIrO3と強磁性金属SrRuO3からなるヘテロ構造では、大きな電界効果を観測した。この系ではこれまでに、磁気スキルミオンに由来する磁気輸送特性(トポロジカルホール効果)が報告されているが、電界効果による制御には至っていない。本研究では、薄膜の高品質化と電界効果トランジスタ構造の改善を行い、電場印加下において、トポロジカルホール効果を測定した。磁気輸送特性の測定に加え、磁気光学カー効果の測定を組み合わせることで、トポロジカルホール効果の電界制御を定量的に評価することに成功した。この制御量は、トランジスタ構造におけるヘテロ界面の位置により影響を受けることが分かった。これは、ヘテロ構造の非対称性により誘起される本系の磁気スキルミオンが、界面近傍における電界効果で大きく制御されることを示している。同時に、磁気輸送特性へ現れる異常ホール効果についても、強磁性体SrRuO3単膜では得られていないほど大きく電界制御されることを見出した。これらは人工的に反転対称を破ったヘテロ構造において初めて実現され、結晶構造の非対称性から磁気スキルミオンが誘起されるバルク系にはない固有の性質である。また、本系のように、高い伝導電子密度を有し、遮蔽により系全体を電界制御するのが難しい磁性体において、電界制御が実現している点も、界面に由来する現象特有の制御性である。これらの結果は、磁気スキルミオンの電界効果が、低消費電力スピンデバイスへ向けた動作原理となる可能性を示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ヘテロ構造に誘起される磁気スキルミオンを調べる上で、高品質な単結晶薄膜を作製することは、系統的な知見を得るために重要であるが、強磁性体SrRuO3薄膜結晶の高品質化は当初の期待以上に進展し、本研究で用いたパルスレーザー堆積法により作製される薄膜としては過去最高の品質にまで高められている。その結果、非磁性体SrIrO3層上に成長させた場合でも磁気輸送特性の観測が可能となり、電界制御の実現と定量的評価へつながった。同時に非磁性体SrIrO3が、比較的安定で扱いやすく、大きな制御性も観測され、系として予想以上に有効であることが判明した。また、磁気スキルミオン形成に由来するトポロジカルホール効果に加え、強磁性体SrRuO3の性質である異常ホール効果についても大きな電場制御が観測されたが、両ホール効果はともにスピン軌道相互作用に由来する現象であり、磁気スキルミオンの電界制御について、界面におけるスピン軌道相互作用が重要な役割を果たしていることを示唆している。これらのことから、ヘテロ構造形成・外部電場印加による電子構造や非磁性体側の磁気状態の変化などの、計画当初、あまり重要とは考えていなかった要因について、より詳細な検討を要することが明らかとなってきた。以上のことから、本研究は当初の計画以上の進展を見せていると判断するものである。
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Strategy for Future Research Activity |
強磁性体SrRuO3と非磁性体SrIrO3のからなるヘテロ構造が磁気スキルミオンの形成だけでなく、電界制御においても有効であることの起源に迫り、ヘテロ構造系の材料設計指針を明らかにすることを目指す。まず強磁性体に注目し、異なる強磁性体と非磁性体SrIrO3とを組み合わせた構造を作製することで、新たな磁気スキルミオン形成を探索するとともに、その形成に必要なジャロシンスキー守谷相互作用を見積り、単結晶ヘテロ構造におけるスキルミオン形成について、非磁性体のスピン軌道相互作用というこれまで知られてきた指標に次ぐ、新たな指針の確立を目指す。次に、非磁性体SrIrO3に注目し、ヘテロ構造を作製した場合の電子状態やスピン状態の変化を、放射光などを用いて検出することを目指す。近接効果や磁性体の組み合わせについては、金属積層膜においても盛んに研究されているが、単結晶ヘテロ構造あると同時に磁気輸送特性の観測も可能な酸化物ヘテロ構造の特徴を生かし、対称性の破れた界面に由来する現象について系統的な知見を獲得することで、金属積層膜に対しても材料や制御に関する指針を得ることが期待される。
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