2016 Fiscal Year Annual Research Report
二方向X線透視システムを用いたヒト足部楔舟立方骨構造の形態機能学的解析
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16J06253
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
伊藤 幸太 慶應義塾大学, 理工学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 直立二足歩行 / 足部骨格運動 / 3次元計測 / X線透視画像 / チンパンジー / 中足部 / 形態機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、複雑なヒト足部構造の中でも中足部の骨で構成される楔舟立方骨構造が直立二足歩行に大きく寄与しているという考えのもと、ヒトとチンパンジーの楔舟立方骨構造の差異に注目し、この構造形態に内在すると予想される直立二足歩行機能の形態的基盤とその進化過程を明らかにすることを目的とした。 具体的にヒト足部とチンパンジー足部の基本的な変形特性の違いを明らかにするために、二方向X線透視システム内で屍体足に鉛直荷重を与え、その動態を計測した。ヒト屍体足標本5体とチンパンジー屍体足標本1体に最大荷重600Nを負荷し、各荷重におけるX線透視画像を撮影した。屍体足の骨格運動計測には申請者が構築したモデルマッチング手法を用いて 3次元骨格運動を再構築し、関節運動を定量化した。その結果、鉛直荷重を作用させると、ヒトの足部では踵骨・中足骨がより大きく底屈・背屈し、足部縦アーチが鉛直方向に相対的に大きく変形することが明らかとなった。このことは、ヒト足部の鉛直方向スティフネスは、チンパンジーのそれと比較して相対的に小さいが、変形量が大きいため蓄えられる弾性エネルギーは相対的に大きくなることを示唆している。さらに、ヒト足部では踵骨が外反するとともに距骨が内転するという2つの骨の協調運動が観察されたが、チンパンジー足部ではそのような運動は生じていなかった。このような踵骨と距骨の協調運動には、歩行中の踵接地における衝撃吸収や、ヒトの体幹回旋運動や下肢の振り出し運動により身体鉛直軸まわりに作用するモーメントを打ち消す役割があると考えられる。今後はチンパンジー屍体足部の標本数を増やし、楔状骨もマッチングをおこなうことで、楔舟立方構造の運動の違いをより詳細に明らかにする予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年は、主に静荷重下におけるヒト足部の生得的な運動特性を明らかにし、その成果を論文にまとめた(現在投稿中)。またチンパンジーとゴリラの足部についても同様の計測をおこない、現在解析を進めている。その予備的な計測結果を日本人類学会で発表し、若手会員大会発表賞を受賞した。現状は十分な数の類人猿屍体足標本を確保することができていないため、類人猿足部との比較結果を論文にまとめることはできていないが、ある程度期待通りの成果が得られたと考えている。 またX線透視を用いた屍体足計測のみならず、足部有限要素モデルを用いた歩行シミュレーションや歩行時の足部体表面動態計測を立ち上げ、歩行時の楔舟立方骨構造の動態をより詳細に明らかにすることを試みた。歩行シミュレーションに関する予備的な結果はロボット学会で報告をおこない、足部体表面動態に関する計測結果は論文として発表した。これらの計測結果と実際の屍体足骨格動態の結果を総合的に考察することはできていないが、様々な方法論を用いて足部の動態計測が可能になった点は、よい成果が得られたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、ヒト足部の楔舟立方骨構造に内在する二足歩行に適応的な変形動態を明らかにすることであるが、現状では静荷重下における基本的な変形動態を理解したのみであり、その変形特性がどのように二足歩行の生成に寄与しているかを今後は明らかにする必要がある。そのために二方向X線透視システム内で腱の牽引をおこない、準静的に歩行時の足部姿勢や力条件を再現し、その際の骨格動態を計測する予定である。各歩行姿勢におけるヒトとチンパンジー楔舟立方骨構造の3次元動態を比較することで、ヒト足部に備わった二足歩行に適応的な形態基盤を対比的に明らかにすることができると考えている。 また現在X線透視計測以外に試みている足部有限要素モデルを用いたシミュレーション解析や、歩行時の足部体表面動態計測を通して、ヒト足部の変形動態を包括的に明らかにする予定である。今後これらの手法をX線透視計測とともに相互補完的に用いることで、ヒト楔舟立方骨構造の変形動態についてより詳細な考察が可能になると考えている。
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Research Products
(4 results)