2016 Fiscal Year Annual Research Report
多項目観測による噴火機構の特定に向けた室内実験:噴火に伴う空振を用いた噴出率推定
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16J06324
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
菅野 洋 東京大学, 大学院理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 自励振動 / 室内実験 / 空振 / ノコギリ波状波形 / アレイ解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績を数理モデルの改良, 特徴的空振の発見, 桜島空振アレイ解析にわけて以下に報告する。 [実験数理モデルの改良] 本年度前半に, 装置内で発生する圧力振動を説明する数理モデルに対して, パイプ内の流動様式が遷移する際の流動構成則を加味する必要があることが判明した. 改良した数理モデルは実験結果をより定量的に説明でき, 既存の火山振動系モデルと数学的に似た構造を持っていることがより明確になった. この結果は今後観測記録の解析を進める際に, 多項目観測から噴火の物理過程を推定する際の重要な手がかりになると考えられる. [特徴的空振波形の発見] 実験結果の再解析の結果, チャンバー内圧力の非周期的振動時において, 特徴的な空振波形が計測されることをみつけた. この特徴的な波形は, 液膜破裂過程に起因するものである. さらに,この特徴的な空振波形を伴うパイプ浅部での破裂過程にともなって, 比較的大きな擾乱が生じており, この擾乱が噴出の周期的変動を乱している可能性があることがわかった. パイプ内の下降流は実際の火山においては火道内マグマのドレインバックや, 噴出物のフォールバックが対応すると考えられる. これらの “フォールバック” は, 火口浅部の流動構成則や, プラグの破壊過程に影響を及ぼし, さらに浅部における擾乱が噴火様式のみならず, 噴火周期にも影響を及ぼしている可能性が実験から示唆される. [桜島空振アレイ解析] ここまでの実験・理論研究と並行して, 実験データと観測記録の比較に向けて, 桜島における空振観測データの解析にも着手した. 実験と同様に, 多項目の観測結果との比較を試みるため, 京大防災研と協力して, 火口近傍の空振記録, 島内の地殻変動記録, 可視画像の記録を入手し, 解析を試みる予定である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
年度前半に,装置内の特徴的圧力変動に関する実験と数理モデルを論文にまとめ始めたところ,パラメータの取り方の間違いに気付いた. その修正を行うと, これまで実験結果とよく一致していたモデルが合わなくなった. その後, データの再解析や, モデルの再検討を行い, 昨年度末に, 論文投稿を行った. しかし, 残念ながらReject とされた. 本研究は, 噴火現象をそのまま縮小コピーしようとする実験ではなく, 波形と数理モデルの相似性という視点で模擬し, その模擬システムの理解から, 噴火現象を支配する新しい要因を見出そうとするもので, これまでの実験火山研究とは異なるアプローチである. そのため, 論文での説明の仕方には工夫が必要で, 最初のReject はやむを得ないことと考えている. 一方で, 再検討したモデルによって, 数理モデルを改良したことによって実験結果をより定量的に説明でき, さらに実験系の振動を説明する数理モデルが既存の火山振動系に対して提唱されてきたモデルと数学的に似た構造を持っていることがより明確になった. 実験で観察されるフローパターンの遷移は,実際の火山ではeffusive-explosiveな活動との遷移過程と対応付けすることができ, 液膜破裂時の流動構成則の変化は, 火道浅部におけるレオロジー則の変化に対応付けすることができると考えられる. また, 実験において, パイプ浅部の擾乱が, 流動様式のみならず周期性にも影響を及ぼしており, 空振記録がこのパイプ浅部の情報を伴っているという事実は, 今後実際の観測記録解析の際にも着目すべき結果である. 実際のデータ解析にも取り組み始め, 研究は着実に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では, まず地球物理学的な観測結果を解析し, ここまでの実験結果の波形の特徴, 周期性との関連を比較する. 実験の多項目計測解析と同様に, 空振記録と, 地殻変動, 表面現象を捉えた可視画像との比較を行う. 火道浅部の擾乱が噴出様式に影響を与える可能性があり, 実験と同様フローパターンの遷移, すなわち破砕を伴う噴火様式として, ストロンボリ式噴火, ブルカノ式噴火の観測記録を解析する. ブルカノ式噴火の観測結果は, 京大防災研との共同研究として, 空振, 傾斜変動, 可視画像のデータの比較を行う. 閉塞火道であると考えられるブルカノ式噴火と対比して, 実験と同様開口火道の噴火と考えられているストロンボリ式噴火の観測記録に対しても, 同様のアプローチで解析を行う. ストロンボリ式噴火の観測に関しては, 引き続きフィレンツェ大学と共同研究を行っていく. 具体的には, 6月中旬から7月中旬にかけて, ストロンボリ島とフィレンツェ大学に滞在する. 室内実験と同様, 空振観測と噴火映像を取得し, 表面現象と観測波形, 噴火周期に関して解析するためのデータを取得する. また地質学的観点からは, Vezzoli and Corazzato (2016)がストロンボリのVancori活動後期(13ka)からNeostromboli(5ka)の活動に対応するダイクの露頭において, ダイク内を破砕物や二次的堆積物が下降流として流れたと考えられる堆積構造を記載している. このようなダイク内の下降流は, 実験で観察されたパイプ内の下降流と関連している可能性がある. この記載がある路頭の観察を行い, ダイク内下降流の噴火機構への影響に関して現地討論を行う. ここまでで得られた観測記録解析結果と議論を基に, 今後の実験装置改良計画へ反映し, 実際に装置の改良を進める.
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