2016 Fiscal Year Annual Research Report
有機導体が示す新奇超伝導相の微視的測定手段による研究
Project/Area Number |
16J06398
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 拓矢 北海道大学, 大学院理学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 有機伝導体 / 強相関電子系 / 核磁気共鳴 / 磁性 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機超伝導体lambda-(BETS)2GaCl4はFFLO超伝導状態や超伝導ギャップの対称性がd波であることが報告されており注目を集めている物質である。超伝導状態は盛んに研究されているが、超伝導メカニズムを明らかにする上で重要な情報である常伝導状態での物性はまだ未解明な点が多い。微視的な磁性を調べることのできる核磁気共鳴法の観点からは、BETS分子のHサイトとSeサイトで研究が行われているが、電子系との結合の強さや感度などに問題がある。そこで本研究はBETS分子の中心の炭素原子を選択的に13C置換した分子を合成し、核磁気共鳴測定を行う。本年度は13C置換したBETS分子の合成法を確立し、今後の研究に十分な量を作製した。そして核磁気共鳴測定を行うのに十分な大きさのlambda-(BETS)2GaCl4の単結晶を作製することができた。その後実際に核磁気共鳴測定を行い常伝導状態の磁気ゆらぎを調べ、60K以上で反強磁性ゆらぎが存在することを明らかにした。温度を下げると、電子状態が局所的な振る舞いから遍歴的な振る舞いに変化すると同時に反強磁性ゆらぎが抑えられ、フェルミ液体状態が実現していることを明らかにした。さらに温度を下げると7K以下で再び磁気ゆらぎが増大することを観測した。これはネスティングの発達によるものと考えられ、超伝導との関係に興味が持たれる。以上の結果はlambda-(BETS)2GaCl4の超伝導メカニズムを考察する上で重要な情報である。さらに現在は、超伝導ギャップの対称性を核磁気共鳴の観点から明らかにするために低磁場で測定を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では核磁気共鳴測定による物性解明を目的としており、これを達成するには同位体置換した分子および単結晶が出来ることが肝要である。平成28年度の早い段階でこれを達成し、核磁気共鳴測定を実施できたことは順調に研究が進んでいることを示している。この結果は日本物理学会で発表し、現在論文投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は超伝導ギャップの対称性を明らかにするために、低磁場での核磁気共鳴測定を行っている。この実験は今後2か月以内に結果が得られる予定である。またアニオンのGaサイトで核磁気共鳴測定が可能であることを見出し、これまでの有機超伝導体では出来なかったアニオンの分子運動と超伝導の関係という新たな観点から研究を進める予定である。さらにlambda-(BETS)2GaCl4において反強磁性ゆらぎの存在が明らかになったことを受け、反強磁性ゆらぎと超伝導メカニズムの関係を明らかにするために、圧力下における核磁気共鳴測定を行っていく予定である。
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