2016 Fiscal Year Annual Research Report
状態空間モデルによる非対称かつ裾の重い分布に従う時系列の推定
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16J06454
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
栗栖 大輔 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 金融時系列 / 高頻度データ / 状態空間モデル / 伊藤セミマルチンゲール / 点過程 |
Outline of Annual Research Achievements |
①まずskewed Kalman filter とその拡張手法である mixture skewed Kalman filter (MSKF) に対しいくつかの現実的な設定の下で数値実験を行い、粒子フィルターとの特性の違いを明らかにした。結果として MSKFは先物取引データなどの金融時系列に特有の性質(収益率が非対称で裾の重い分布に従う)がみられるケースでは他のモデルに比べより正確な状態推定が可能になることが分かった。 ②高頻度金融取引データの統計分析について2つの研究に取り組んだ。1つ目は、高頻度データ(対数資産価格)がマーケットマイクロストラクチャーノイズと呼ばれる金融市場の特性を反映したノイズを伴って観測される場合において、対数資産価格としての確率過程モデルが観測期間にジャンプをもつか否かの検定統計量の数学的性質を調べた。対数価格過程が観測期間内にジャンプをもつか否かという問題は金融機関におけるリスク管理や金融商品の価格決定に用いるモデルの設計に当たり非常に重要な問題である。特に先行研究で提案されている検定統計量の漸近的性質について、ノイズを伴って観測される場合における検定の頑健性を調べた。 ③2つ目は複数の資産価格の高頻度データが利用可能な場合における対数資産価格のジャンプ(複数の系列を扱うので同時点でのジャンプも考慮する)の有無の検定についても新たな手法の提案を行った。 ④また日次データレベルの観測を10年、20年といった長期間観測する場合に、稀に発生する金融危機時における国際市場間の因果性分析手法の提案も行った。金融危機は決まった周期性をもたず、時差の関係で各国の市場が開いている時間が異なることから数時間、あるいは1日単位のずれを伴ってそのデータが観測される。この場合における金融危機の影響の伝播を点過程と呼ばれる確率過程のクラスを用いて分析する手法を提案した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
①の研究成果は2017年7月にモロッコで開かれる国際学会ISI2017で招待講演として共同研究者が発表することが決定している。 ②の研究成果は国際学術誌に投稿を行い、国際学術誌 Asia-Pacific Financial Markets に掲載済みである。 ③の研究成果は現在権威ある査読付き国際学術誌に投稿中である。 ④の研究成果は査読付き国内学術誌に投稿中である。
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Strategy for Future Research Activity |
現在研究③、④の研究に関してさらに発展的な内容の研究を進めている。 ③の研究の続きとして、利用可能な金融商品の対数価格等の高頻度データががレヴィ過程と呼ばれる確率過程に従う場合にデータからレヴィ過程のレヴィ密度に対する統計的推測を行うことを目指している。応用上の観点から見ると、レヴィ過程は金融資産の価格過程のモデルや保険・再保険のモデルとして以前から利用されており、自然科学では特に宇宙物理学の分野においてしばしば利用されてきた確率過程のクラスである。レヴィ過程の特徴として③の研究に利用した確率過程のクラスである伊藤セミマルチンゲールの特殊なケースでありながら主要な数学的性質(確率過程の経路がジャンプをもつ等)を保ちつつ、統計的に扱いやすい性質をもつことが挙げられる。統計学の理論的観点から見ると、レヴィ過程のレヴィ密度に対する統計的推測の問題は応用上重要にも関わらず先行研究がほとんど知られていない。 ④の研究の続きとして、地理的に近い国際金融市場(東京と香港、あるいはロンドン、パリ、フランクフルトなど)における金融危機の伝播の影響をとらえる点過程のモデルを新しく提案することを目指している。国際市場間の因果性分析に利用される統計モデルとしては離散時間の時系列モデルがこれまでよく利用されてきたが、これらのモデルでは市場間の同じ日あるいは市場が同時に開いている時間内に起きた大きな市場の変動をうまくとらえることが出来ない。一方、点過程モデルを利用するとこのような問題を解決でき、国際市場間の因果性を自然にモデル化できるようになると考えられる。 従って本研究で一定の成果が上げられれば実用的には金融時系列の統計的分析、理論的には確率過程に対する統計的推測において大きく貢献することが出来る研究である。
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Research Products
(8 results)