2016 Fiscal Year Annual Research Report
フルカラーチューニングを指向した固体蛍光色素の合成, 構造, 新機能の開拓
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16J06559
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
谷岡 卓 岡山大学, 医歯薬学総合研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | π電子系色素 / ソルバトクロミズム / 光異性化 / 双性イオン |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は,アミノベンゾピラノキサンテン系(ABPX)色素が有する 3 種類の分子種(SL,Z1,Z2)の光物性を解明することで,フルカラー調光が可能な ABPX の創製を指向した研究を行った.具体的な研究成果としては,スピロラクトン型分子種(SL)の光物性を精査した結果,SL が溶媒極性に依存して蛍光波長が大きく変化するソルバトフルオロクロミズムを示すことを明らかにした.そこで,SL の基底状態と励起状態の永久双極子モーメントを算出した結果,励起状態では基底状態に比べ 8 D(デバイ)以上大きな永久双極子モーメントを有していることがわかった.さらに理論計算により,この永久双極子モーメントは,励起状態で分子内で形成される分極構造に由来することがわかった.この結果より,SL のソルバトフルオロクロミズムは,励起状態の分極構造と溶媒分子が相互作用を起こし,励起状態が安定化したために生じたと結論づけた.これらの研究成果は,光化学討論会を始めとした 3 件の学会で発表し,また本成果は学術論文として英国王立化学会が発行する Physical Chemistry Chemical Physics 誌に投稿し掲載を受理された. 続いて SL への光照射による分子構造変化を調べた結果,一分子レベルで分子構造変化がおこり,双性イオン型分子種である Z1 および Z2 が生成することがわかった.さらに,SL は溶液中では光照射により Z1 に選択的に構造変化する一方で,ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンなどの有機ガラス中では Z2 に選択的に構造変化するなど,SL の光照射による構造変化は色素周囲の環境に依存することがわかった.本研究成果は日本薬学会第 137 年会にて発表した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度は,フルカラー調光が可能な ABPX の化学構造の探索および合成に関して, ABPX の 3 つの分子種(SL,Z1,Z2)が光の三原色である,青色・緑色・赤色蛍光を示す誘導体を探索し合成することを目的としていた.この目的の達成に向けて,まずこれまで研究が行われていなかった SL の溶液中での光物性を解析した結果,SL が溶媒の極性に依存して蛍光波長が変化するソルバトフルオロクロミズムを示すことを発見し,さらにトルエンやベンゼンなどの低極性溶媒中において青色蛍光を示すことを見出した.次に Z1 の緑色蛍光および,Z2 の赤色蛍光に関しては,実験および計算化学を用いた解析から,ABPX のキサンテン環部位のアミノ基の電子供与性をプロトタイプであるジエチル体より低下させることで得られることがわかった.また,予備検討において,SL,Z1,Z2 の調光は本年度に実施するスピロ環部位の構造修飾によっても可能であることがわかった.このように,光の三原色を示す ABPX は実験的にも計算的にも得られることが確認できたため,研究はおおむね順調に進行していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度はまず,各種溶液中において SL への光照射によって生成する双性イオン型分子種である,Z1 および Z2 の光物性や熱力学的安定性の解明を引き続き行う.続いて,光の波長や強度による,SL, Z1, Z2 の構造変換の意図的な制御に向けて,化学構造変換に関与するスピロ環の開閉機構を明らかにする. ローダミン色素をはじめとした類似化合物の光異性化研究から, ABPXの双性イオン型(Z1, Z2)の生成には,スピロ環部位の C-X 結合をイオン開裂により効率的に切断することが求められる. そこで, C-X 結合の結合距離並びに,電子遷移状態の結合解離エネルギーを考慮し, X 部位(X = O, N, S, Se)を系統的に改変した誘導体を合成した後, 誘導体間での光化学過程の比較検討を行う.次に,Z1 と Z2 の生成量や安定性に関与する照射光の波長や強度の特定を行うとともに,開閉の可逆性も調査する. 上記の結果を基に,合成した誘導体を用いて固体状態での集積構造と蛍光特性の関係の解明を行う. 具体的には,誘導体の X 線結晶構造解析から,キサンテン環部位の配列・配向や分子間相互作用を調査し,固体蛍光性との相関性を解明する.また同時に,分光学的手法や計算化学的手法を駆使した複合的な解析と組み合わせ,集積構造変化と固体蛍光色変化の連動・制御に向けた指針を得る.
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Research Products
(6 results)