2017 Fiscal Year Annual Research Report
Influence of the rotational motion of colloidal particles on phase behaviour - numerical simulation and experimental system development
Project/Area Number |
16J06649
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柳島 大輝 東京大学, 生産技術研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | コロイド / 合成 / 数値計算 / 結晶 / 回転 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はオックスフォード大学物理化学部との共同研究も実現して、回転運動が見えるコロイド分散系の実験系の構築において大きな前進が見られた。 科研費・課題15K17734で開発中であったコロイド合成法を更に改良して、同密度・屈折率の溶媒に分散することにより共焦点顕微鏡を用いた三次元観察可能な分散系が完成した。これにより高密度な三次元系においても全粒子の位置と向き、時間を追っての並進・回転運動を計測することが可能になった。先行研究では特殊なプローブ等を用いて局所的に回転を計測することは可能であったが、観察対象内すべての粒子の回転を把握することは不可能であった。合成手法も極めて簡単なため、密な分散系における溶媒の「流れ」の効果を探る等、多くの分野での応用が期待される。 この新たな方法を用いて、コロイド結晶内においての拡散的な回転運動と隣接した粒子間の回転運動の相関を探った。これは、隣接粒子を含む全粒子の向きを計測できる特性により、初めて可能となったことを強調したい。その結果、密なコロイド結晶内において隣接コロイド間には過渡的に負の回転・回転相関があることを発見した。これは隣接した粒子が反対方向に回転する確率が高いことを示す。結晶は等方的な構造をしているため、すべての粒子が一緒に歯車のように回ることは不可能である。しかし過渡的にはこのような運動も可能と考えられ、この度直接観察されたことになる。電荷を帯びたコロイドは接触していないため、流体力学的な効果(溶媒の流れ)によって相関が出現している可能性が高い。既存の理論的考察との整合性も確認された。 数値計算を用いた検証でも進展が見られた。昨年度開発したFPD法の計算コードを用いて二次元系において隣接した粒子の運動を追ったところ、同様な相関が確認された。3次元系においての検証は今後の課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は実験系の構築において大きな進展が見られた。完成したトリプロピルシリルメタクリレート(TPM)の粒子は汎用性も高く、密度・屈折率共に同様な溶媒の中で安定的に分散することができる。更に結晶化する程度まで大きさを揃えて合成することは当課題の主な応用事例である結晶内の回転運動の検証においては不可欠であった。この技術的なハードルを越えられたことは自己評価の主なプラス要因の一つであり、オックスフォード大学物理化学部のRoel Dullens教授へここで謝辞を述べる。 しかし、海外渡航の目的の一つとして挙げた少数のコロイド間の流体力学的作用による運動相関を探る実験は、これを実現するために不可欠であった共焦点・光ピンセットユニットの故障、及び搬送業者のミスによる光学センサーの破損により滞在期間内に実現しなかった。結晶内部の観察は既に新規性が高い結果をもたらしたが(上記)、理論的考察が可能な少数粒子の系との比較は次回の課題となる。来年度再び渡英することを含む打開策を検討する。(PD期間内で国内で独自に開発することは難しいと考えられる。) 当課題は、コロイド分散系の相挙動の検証も含む。流体の効果以外の結晶化機構を探るため、ブラウン動力学法を用いた数値計算を用いた剛体球ガラス(液体の構造をもつ混み合った固体)の研究を行った。ガラス内では断続的な結晶化(雪崩型結晶化)が報告されており、この度起因するメカニズムの解明に成功した。集団的粒子運動は体積分率の不均一性から確率的に突然誘起され、高密度系特有の力鎖のネットワーク形成に起因した機械的安定性により断続的なダイナミクスが生まれることが分かった。これは金属ガラス、薬剤の長期保存等、結晶化を阻害する必要がある系において、極めて貴重な基礎的知見を与えると期待される。 今年度は多方面で進捗が見られたため計画以上の進展と評した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在当課題では実験系とブラウン動力学法による数値計算に重点がおかれている。これは非常に再現性に優れた、観察しやすい、クオリティの高いコロイド分散系の完成によって数値計算からのみ得られると思われた高精度なデータが得られるようになったことに起因する。これを踏まえ、最終年度は以下のように研究を進める予定である。 (1) FPD法を用いて三次元のコロイド結晶においての回転・回転相関を探る。一年目に開発したコードを用い、コロイド数個、もしくは結晶のユニットセル何十個程度に応用する。三次元系のシミュレーションを行い、実験結果と比較する。 (2) 更に高体積分率のコロイド系、主に体積分率58%を越えたガラス系(液体の構造を持つ構造が混み合った固体)において実験データを収集、解析。アモルファスな系は個々の粒子が異なる環境にあるため、構造の不均一性を考慮した計測が重要である。顕微鏡観察前のサンプル封入の効果等も考慮しながら実験を進める。 (3) 剪断流がある環境(例、キャピラリーの中の流れ等)においての回転運動を計測、解析する。回転運動が見えるミクロ単位のプローブは局所的な剪断ひずみの計測、新しいミクロ単位の物性計測(ミクロレオロジー)への応用が期待される。計測は共焦点顕微鏡に限らず、蛍光観察のみで粒子コアの位置変動による明るさの変調の応用等も視野に入れる。 新規性とインパクトを考慮すると、実験系構築の成功から生まれた数々の新しい応用の可能性を追うため実験系に重点をシフトすることが最善と考える。
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Research Products
(5 results)