2017 Fiscal Year Annual Research Report
太平洋亜熱帯窒素固定海域が水産資源生産に果たす役割の定量的解明
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16J06708
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀井 幸子 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 太平洋 / 生食連鎖 / 安定同位体比 / 窒素 / 窒素固定 |
Outline of Annual Research Achievements |
1. 昨年までに得られた中部太平洋の漂泳食物網の生物サンプルにおける安定同位体比の結果や、一般に公開されている物理化学環境データを用い、両者の関係について解析を進めた。その結果、本研究で特に着目している窒素固定や、従来重要とされてきた有光層以深の硝酸塩の他に、赤道域から表層流により水平輸送される窒素が、隣接する貧栄養な亜熱帯海域の一次生産に大きく寄与している可能性が明らかになった。以上の知見を加え中部太平洋の生食連鎖系への窒素供給源の地理的変動をまとめた成果を、海外学術誌に投稿した。
2. 2017年8月から10月にかけて研究航海(白鳳丸KH-17-4次航海)に参加し、北太平洋亜熱帯の北緯23度線上にて、窒素固定活性を含む環境データの観測や実験を行うとともに、一次生産者から高次捕食者の窒素および炭素安定同位体比分析用のサンプルを採集した。現在分析および解析を進めていて、ここで得られた結果により、有光層以深の硝酸塩、大気窒素および大陸からの人為起源の窒素、それぞれの生食連鎖への寄与の東西変化が推定できる見通しである。これまでのところ、対象海域は表層の硝酸塩が一貫して枯渇している一方で、窒素固定活性が中部太平洋を中心に広い範囲で見られることが明らかになっている。
3. 2017年6月から8月にかけて研究航海(白鳳丸KH-17-3次航海)に参加し、これまで観測を行ってきた亜熱帯とは依存する窒素源が大きく異なると考えられる北太平洋亜寒帯北緯47度線上で、一次生産者から高次捕食者までの生物サンプルを得るとともに、現場環境を知るための観測、実験およびサンプリングを行った。得られた結果から、これまでデータがなかった北太平洋亜寒帯海域において、炭素および窒素安定同位体比の分布図を作成することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
船上での観測、実験およびサンプリングは、予定通り今年度ですべて終了した。また研究室での分析についても、生物サンプルの安定同位体比や現場の窒素固定速度の分析など予定していたもののうち主要なものはすでに終了しており、観測点における窒素固定者およびプランクトン群集の組成分析を残すのみであるため、概ね順調な進捗であるといえる。 成果発表に関しては、中部太平洋の生食連鎖系への窒素源の南北変化に関する内容をすでに海外学術誌に投稿したが、査読プロセスに時間がかかり受理には至っていない。しかし最終年度には受理が見込まれる点、さらにより直近に得られた分析結果に基づく成果を、複数の学術論文としてまとめる見通しがついている点を考慮し、全体としては研究が期待通り進展したと評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
検鏡や分子生物学的手法により、窒素固定者を含むプランクトン群集組成の分析を行い、窒素固定活性や一次生産の主要な担い手の特定を試みる。これにより、窒素固定の活性を直接観測するよりも長い時間スケールでの窒素固定者の寄与を推定するとともに、固定された窒素が一次生産者間、あるいは水柱内でどのように転送されるかについて考察する材料が得られると考えられる。また、物理モデルを基づいた人為起源窒素の降下量の既報知見を収集、解析することで、人為起源窒素の一次生産者への寄与が海域間でどのように変動するかを推定する。これにより、一次生産者の窒素安定同位体比が、人為起源窒素の寄与をどの程度反映しているのか、推測できると考えられる。 以上の結果をこれまで得られた成果と合わせてまとめ、複数の学術誌に投稿する予定である。
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Research Products
(3 results)