2017 Fiscal Year Annual Research Report
オメガ3脂肪酸代謝酵素は海産魚にとって本当に必要か?
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16J06812
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
壁谷 尚樹 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ゲノム編集 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度から引き続き、ゼブラフィッシュを用いた実験の最終段階として、ゲノム編集技術を用いた脂肪酸代謝酵素(不飽和化酵素)遺伝子への変異導入、その次世代作出および系統化を行った。変異導入法は基本的に前年度に確立した方法を踏襲したが、インジェクション技術の向上により、本年度は前年度と比べ比較的高い生残率が得られ、より多くの親魚を生残させることが可能であった。今年度マイクロインジェクションにより作出した変異導入世代(親世代)は44個体が成魚にまで成長した。親世代の変異導入率を解析するため、尾鰭の一部を切除し抽出したゲノムDNAを用いて、変異導入の有無を確認した。その結果、44個体の親世代のうち、7個体(15.9%)の尾鰭ゲノムにおいて目的の変異導入が検出された。続いて、この変異導入が確認された7個体の親世代について、生殖細胞系列にも変異が導入されているか交配実験により解析した。変異個体の雌と野生型の雄、変異個体の雄と野生型の雌とをそれぞれ掛け合わせ、得られた受精卵ゲノムDNA中の変異導入の有無を確認した。その結果、雄1個体、雌1個体の合計2個体において、次世代での変異導入が認められ、生殖系列への変異導入が確認された。そこで、この雌雄を交配させることで次世代(F1世代)を作出した。得られたF1は受精後48時間(hours post fertilisation, hpf)、24 hpf、6 hpfにおいてDNA抽出を行い、変異導入の有無を確認した。解析したF2世代103個体のうち、ホモ変異体は1個体も検出されず、ヘテロ変異体が78個体(75.7%)検出された。この結果から、ゼブラフィッシュにおいて不飽和化酵素のホモ変異体は致死性であることが示された。このことから、不飽和化酵素遺伝子はゼブラフィッシュの発生過程において何らかの重要な働きをしている可能性が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度はゼブラフィッシュを用いた不飽和化酵素遺伝子のゲノム編集を主に行っていたが、脂肪酸代謝酵素遺伝子のゲノム編集に成功し、その変異が次世代に遺伝することも確認した。しかし、ホモ変異体が致死性であることが認められ、この原因としておそらく、高度不飽和脂肪酸は神経の形成等に重要な役割を果たすため、胚発生においてこれら過程が正常に進まないためであると考えられた。当初は餌料中に十分な高度不飽和脂肪酸が含まれていれば、内在性の合成を無視できる程度にこれら脂肪酸を供給可能であると予想していたが、発生過程における不飽和化酵素の発現は、単純にEPAやDHA等を生産するだけでなく、それら脂肪酸のバランスを発生が滞りなく進行するようにコントロールする役割を果たしている可能性が考えられる。この知見は、当初予定していなかったものの重要であると考えられ、脂肪酸代謝酵素遺伝子への変異導入が可能であると示されたが故に得られたものである。来年度へ向けて、海産魚への変異導入の準備も十分に進んでおり、ゼブラフィッシュとは内在性の高度不飽和脂肪酸合成能が根本的に異なる海産魚が脂肪酸代謝酵素遺伝子への変異導入に対してどのような挙動を示すのかが期待される。魚の飼育、産卵準備等に若干の遅れが出たため、海産魚へのゲノム編集を実際に進めてはいないものの、夏季が使用する魚種の繁殖最盛期であるため、今後十分に実験を進めることが可能であると考えられる。以上より本年度の進捗状況を(2)おおむね順調に進展している、とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ゼブラフィッシュに関しては、すでに得られているヘテロ変異世代を用いて、放射性同位体標識された脂肪酸の体内での代謝の解析、魚体の脂肪酸組成の解析等を行うことで、高度不飽和脂肪酸代謝系の変化について解析する予定である。なお、現在、上記の内容をまとめた論文を執筆中であり、今年中の発表を予定している。また、本実験においては不飽和化酵素遺伝子への変異導入を行なったが、今後は鎖長延長酵素遺伝子の変異導入系統の作出も行い、同様の解析を行う。最終年度である次年度は、ゼブラフィッシュで確立した技術を参考に、海産魚において脂肪酸代謝酵素遺伝子のゲノム編集を行う。したがって、海産魚でゲノム編集を行うための基礎情報の収集、ゲノム編集に必要なガイドRNAの設計などをすでに行なった。実験には、これまで筆者らが、小規模な種苗生産法、短期間での成熟誘導法、遺伝子導入法等の実験系を確立しているニベ科の海産魚であるニベ Nibea mitsukuriiを用いる予定である。ニベを用いる利点として、成熟に要する日数が雄では16週間、雌では24週間と比較的短く、次世代の作出が必須である系統の確立が容易であることが挙げられる。すでにクローニング済みであるニベの不飽和化酵素遺伝子および鎖長延長酵素遺伝子上のPAM配列を確認し、変異導入位置を複数箇所決定しており、今後は切断効率等を解析していく予定である。また、ニベはゲノム情報が存在せず、オフターゲットの有無を確認することが基本的に不可能であるため、近縁種でゲノム情報が充実しているLarimichthys crocea(フウセイ)およびMiichthys miiuy(ホンニベ)の情報も参考にしている。マイクロインジェクションによるニベへの変異導入を随時行い、次世代を作出したのち、その脂肪酸代謝系および脂肪酸組成を解析する予定である。
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Research Products
(12 results)
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[Presentation] Acquiring the capacity of docosahexaenoic acid synthesis by three alternative ways in freshwater soles (Pleuronectiformes: Achiridae).2017
Author(s)
Matsushita, Y., Sanada, S., Kabeya, N., Haga, Y., Satoh, S., Yazawa, R., Yoshizaki, G.
Organizer
International Symposium "Fisheries Science for Future Generations"
Int'l Joint Research
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[Presentation] Molecular and functional characterisation, and expression of desaturase and elongase genes involved in ω3 LC-PUFA biosynthesis in Sarpa salpa and Pegusa lascaris2017
Author(s)
Garrido, D., Monroig, O., Galindo A., Perez J.A., Acosta N.G., Kabeya N., Betancor M.B., Rodriguez C.
Organizer
Aquaculture Europe 2017
Int'l Joint Research
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[Presentation] loning and characterization of a fatty acyl desaturase 2 (Fads2) from tambaqui Colossoma macropomum.2017
Author(s)
Ferraz, R., Kabeya, N., Ribeiro, R.A., Lopez-Marques, M., Ozorio, R., Castro, L.F., Monroig, O.
Organizer
Aquaculture Europe 2017
Int'l Joint Research
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