2016 Fiscal Year Annual Research Report
双極性障害発症における脂質代謝酵素ジアシルグリセロールキナーゼηの役割と機能
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16J06865
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
米野井 優 千葉大学, 大学院理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 双極性障害 / ジアシルグリセロールキナーゼ / ホスファチジン酸 / セロトニントランスポーター / リゾホスファチジン酸 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究においては、「1. ジアシルグリセロールキナーゼ (DGK) ηの双極性障害 (BD)に対する寄与の証明」、「2. DGKη-ノックアウト (KO) マウスのそう様行動の原因の解明」、「3. DGKηのDG分子種選択性の解析」という3点で進展が得られた。 まず、1.に関しては、DGKη-KOマウスの示すそう様行動が、BD治療薬であるリチウムによって緩和されることが明らかとなったことから、BDと同様の原因によって生じている可能性が高いことが示唆された。現在までのBDのモデルマウスは、BDに有効な薬剤から考えられたモデルマウスであるのに対して、我々のマウスは、遺伝子研究よりBDへの関与が示唆されている遺伝子を欠損させたマウスであるため、より正確なBDのモデルマウスである可能性が高いと考えられる。 次に、2.に関しては、DGKη-KOマウスの大脳皮質で、セロトニントランスポーターの異常活性化が起こっていることが明らかになり、シナプス間隙におけるセロトニンの濃度異常がDGKη-KOマウスのそう様行動の原因である可能性が示唆された。 最後に、3.に関しては、DGKηをノックダウンした神経芽細胞腫由来のNeuro-2a細胞では、生体内に豊富に存在するジアシルグリセロール (DG) 分子種の内、34:3 (含有する脂肪酸の炭素数の和 : 含有する脂肪酸の不飽和度の和) -, 36:5-, 36:4-, 36:3-DGといった「中程度の長さ」と「高い不飽和度」を持つDG分子種を選択的に代謝することが明らかとなった。また、DGKη-KOマウスの血中では、これらのDG分子種に由来すると考えられる18:2-, 20:5-リゾホスファチジン酸 (LPA) が減少していることも明らかとなった。このことから、DGKηの発現変化を伴うBDの診断にLPA測定が有用である可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
共同研究先で行われている、DGKηが過剰発現したDGKη-トランスジェニック (TG) マウスの作製が成功していない影響で、当初の予定とは順番が変更になった部分があるが平均化すれば、おおむね順調に進展していると考えられる。 まず、「個体レベルでのDGKηの機能解析」については大幅に遅延している。当初の予定では、現時点でDGKη-TGマウスの行動解析や、視床下部-脳下垂体-副腎系刺激時のDGKηの発現量の確認が終了している予定であったが、TGマウスの作製の遅延により、これらの研究は行われておらず、DGKη-KOマウスのLiClによるレスキュー実験のみしか終わっていない。 次に、「組織レベルでのDGKηの機能解析」は、研究内容に変更はあったものの、順調に進行している。「脳におけるDGKηの免疫染色が他の研究室により行われてしまったこと」や、「DGKηの欠損により、神経の成熟に顕著な変化は見られなかったこと」から当初の予定していた研究は行っていないが、「セロトニン神経系に異常があること」、そして、「セロトニントランスポーターの異常活性化が生じていること」が明らかとなったことから、ほぼ計画通りに進んでいるといえる。 最後に、「分子レベルでのDGKηの機能解析」は当初の予定よりも大幅に進んでいる。当初の予定では、1年目にこの領域の進展はない予定であったが、「DGKηが細胞内で、生体内に豊富に存在するDG分子種の内、中程度の長さと高い不飽和度を持つDG分子種を選択的に代謝すること」、「DGKη-KOマウスの血中では、18:2-, 20:5-LPAが減少すること」を明らかにしており、当初の計画より大幅に進行しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
「DGKηの欠損がセロトニントランスポーターの活性化に寄与するメカニズムの解明」、「DGKηの代謝するDG分子種の供給経路の解明」を中心に研究を推進していく。 まず、当初予定していたDGKη-TGマウスを用いた実験に関しては、現段階でDGKη-TGマウスの作製が成功したとしても、実験に使えるようになるまで時間がかかる。従って、引き続きDGKη-TGマウスの作製には取り組むが、本プロジェクト中に、この領域における研究で多くの結果を出すことは難しい。こうした経緯から、本プロジェクトは、細胞レベル、分子レベルでのDGKηの機能解析に力を入れていく。具体的には、「DGKηの欠損がセロトニントランスポーターの活性化に寄与するメカニズムの解明」、「DGKηの代謝するDG分子種の供給経路の解明」の2つをプロジェクトの中心課題とする。 まず、「DGKηの欠損がセロトニントランスポーターの活性化に寄与するメカニズムの解明」に関しては、1年目の研究により「DGKηとセロトニントランスポーターの関連」が示唆されたことから、細胞レベルでの実験を行い、最終的にはDGKηがセロトニントランスポーターにどのような形で影響を与えているのかについて明らかにし、未だ明らかではないBDの病態の解明へと発展させていく予定である。 次に、「DGKηの代謝するDG分子種の供給経路の解明」については、1年目の研究により、DGKηは、生体内に豊富に存在するDG分子種の中では、比較的量が少ない、「中程度の長さ」と「高い不飽和度」を持つ脂肪酸を含有するDG分子種を選択的に代謝することが明らかになったことから、こうした珍しいDG分子種がどのような経路から供給されているかを今後明らかにしていく予定である。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] “Deficiency of diacylglycerol kinase h induces lithium-sensitive mania-like behavior.2016
Author(s)
Isozaki T., Komenoi S., Lu Q., Usuki T., Tomokata S., Usuki T., Tomokata S., Matsutomo D., Sakai H., Bando K., Kiyonari H., Sakane F.
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Journal Title
Journal of Neurochemistry
Volume: 138
Pages: 448-456
DOI
Peer Reviewed / Open Access
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