2016 Fiscal Year Annual Research Report
現代中東における宗教対立とその抑止政策:イスラーム連帯が持つ平和創出機能の研究
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16J06871
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
池端 蕗子 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | イスラーム協力機構 / ヨルダン / 宗派対立 / 宗教間対話 / ウンマ / イスラーム政治思想 / 国際機構 / OIC |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国際機構OIC(イスラーム協力機構)に着目し、イスラーム世界における宗教的イデオロギーの対立と和合の実態を解明することである。本研究は特に現代中東における宗派・宗教の対立と和合の動態について、①OICにおける国家連合的ポリティクス、②単一国家それぞれが覇権を争う対立の現場、③非国家主体の反国家的挑戦、の3階層に分けて分析を行う。 博士予備論文(修士論文に相当)で扱ったヨルダンの宗派和合・宗教間対話のイニシアティブについての研究を足がかりとして、本年度はヨルダンをOIC加盟国の一つの事例とし、上記の3階層においてどのような動きを見せているかについて考察を進めてきた。OICは聖地エルサレムの防衛を加盟国の連帯の基軸として設立した。ヨルダンは王家が中心となってエルサレムの守護政策を継続して行っており、OICの発言の場においてもその役割の重要性を主張している。また、ヨルダンは国内のキリスト教古地及びキリスト教徒マイノリティの保護を行っていることを素地として自らの宗教間対話イニシアティブを構築しており、他のOIC加盟国の諸イニシアティブと比較しても独自性を発揮していることが明らかとなった。 さらに、本年度はOICの設立に至るまでの歴史的・思想的背景についても分析を行った。OICはイスラームという宗教を機構の理念とするなど、他の国際機構と比較しても独自な性質を持ち、イスラーム世界を論じるにあたっては非常に興味深い存在である。しかしOIC研究は十分に進展しているとは言い難い。本研究の重要性は、イスラーム政治思想研究の立場からOICを考察するとともに、その実際的な役割についても分析を行うことにある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はほぼ当初の計画通り研究を進め、その研究成果の発表を積極的に行った。国内での研究成果の発表としては、日本中東学会年次大会(5月)での口頭発表を行うと共に、同学会発行の『日本中東学会年報』への学術論文投稿を行い、採録が決定した。また、京都で開催されたマレーシア国民大学と京都大学共催の国際シンポジウム(10月)では英語発表を行い、ベストパフォーマンスアワード(金賞)を受賞した。また『イスラーム世界研究』へ英語論文の投稿を行った。海外でも研究成果の発表を行った。イギリス・ダラム大学で開催された国際ワークショップ(8月)ではOIC設立の歴史的・思想的背景について英語発表を行い、韓国・釜山外国語大学で開催された国際会議(3月)ではヨルダンの宗教間対話政策の独自性について英語発表を行った。これらの研究発表の機会においては数々の有意義なフィードバックが得られたため、これを活かして自らの研究内容の精査に努めることが出来た。 また、フィールドワークにおいては諸研究機関において、有用なアラビア語資料の収集を行うことが出来たほか、聞き取り調査によっても有用な情報を得ることが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き資料の収集を行うとともに、博士論文の執筆に着手する。今後はヨルダンだけでなく、OIC設立を牽引したサウディアラビア等、他の中東諸国についても分析を行う。ヨルダンの他にも、カタルやモロッコ、オマーンなどが宗教間対話における発言の強化を試みており、こうした他のOIC加盟国のイデオロギーと比較することで、ヨルダンの宗教的イデオロギーを相対化していく。またイラン・イラク戦争やイエメン内戦など宗派対立の問題が先鋭化した時期に特化して新聞資料等の収集を行い、当時のOICの動向を詳細に分析する。これにより、OICの紛争予防・緩和・解決能力、及び紛争調停を疎外する要因について考察を行う。
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