2016 Fiscal Year Annual Research Report
伴侶動物に潜在する致死性遺伝子病の分子基盤および病態の解明
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16J06970
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
神山 萌子 山口大学, 連合獣医学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 遺伝子病 / 先天代謝異常症 / クラッベ病 / カナバン病 / 病原性変異 / 犬 / 猫 / ヒト疾患モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、犬および猫において、遺伝性致死性の大脳白質変性症を起こすグロボイド細胞白質変性症(クラッベ病)ならびにアスパルトアシラーゼ欠損症(カナバン病)の原因遺伝子および病原性変異を明らかにし、各疾患の分子基盤を解明する。また、解明された各変異について犬および猫集団で分子疫学調査を実施して変異アレル頻度を算出し、各疾患の獣医学臨床上の重要度を評価する。同時に病態解析により疾患モデル動物としての特徴を明らかにして、将来的な新規治療開発研究に備える。なお、上記の2疾患に加えて、最近発見された犬および猫の神経セロイドリポフスチン症の分子基盤および病態についても解明する。上記の項目を目的として研究を実施した。 初年度(平成28年度)には、犬クラッベ病および猫カナバン病に関する解析を中心に行った。両疾患の発症動物のDNAを用いて、各疾患の原因となる遺伝子(クラッベ病:GALC遺伝子、カナバン病:ASPA遺伝子)のエクソンおよびその近接領域の配列をダイレクトシーケンスにより確認した。その結果、それぞれの疾患において病原性変異である可能性の高いエクソン上の変異が確認されたため、それらの変異を判別する遺伝子型検査法をリアルタイムPCR法で設計し、国内犬猫集団における疫学調査を実施した。両変異アレルは、発症個体およびその家系メンバーのDNAだけに認められたため、病原性変異であることが示唆された。また、両疾患の臨床症状、臨床病理学的所見、MRI検査所見および病理学的所見を集積し、疾患モデル動物としての特徴を明確化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度(平成28年度)の研究では、計画通りに犬クラッベ病および猫カナバン病について、遺伝子解析および病態解析を実施して、病原性と強く示唆される変異を同定でき、疫学調査を実施し、それぞれの疾患の特徴を明確化することができた。 犬クラッベ病では、犬GALC遺伝子のエクソン上に発症動物家系においてミスセンス変異が同定され、同変異を特異的に判別する遺伝子型検査法を用いた国内犬集団における分子疫学調査によって、この変異が非常にまれな変異であることが解明された。また、特徴的な病態所見として、血液塗抹上の単球空胞や大脳組織上にグロボイド細胞の集積が確認された。 猫カナバン病では、猫ASPA遺伝子のエクソン上にミスセンス変異が同定され、同変異を特異的に判別する遺伝子型検査法を用いた国内猫集団における分子疫学調査によって、この変異が非常にまれな変異であることが解明された。また、特徴的な病態所見として、ガスクロマトグラフィー質量分析によりN-アセチルアスパラギン酸の尿中への顕著な排出が確認され、大脳および小脳組織上では顕著な海綿状変性がみられた。 犬クラッベ病および猫カナバン病の研究成果については、それぞれ別の国際学会(ACVP-ASVCPおよびESVN-ECVN)で報告することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、これまでの得られた成果を科学論文にまとめて公表するとともに、未解明の疾患(猫カナバン病、犬カナバン病および犬猫の神経セロイドリポフスチン症)についての解析を進めていく。 犬クラッベ病および猫カナバン病に関する分子基盤および病態解析についてはこれまでの結果をもとに現在論文としてまとめている所であり、国際誌へ投稿予定である。猫クラッベ病については、過去の症例についての解析で試料の不足により行うことのできなかったRT-PCRやさらなる遺伝子解析を実施し、分子基盤を決定する。 犬カナバン病については、症例のDNAを用いて犬ASPA遺伝子のエクソンおよび近接領域をダイレクトシーケンスにより確認し、RT-PCRによるmRNAの解析やバイオインフォマティクス的手法を利用して、変異候補を絞り込む。変異が同定されれば集団での分子疫学調査を実施し、変異アレル頻度を算出する。またこれまでに蓄積された臨床症状、MRI検査および病理学的検索の結果を解析し、疾患モデル動物としての特徴を明確化する。これら分子基盤および病態の解析について十分な結果が得られれば、学会での報告や国際誌への論文投稿を行う。 犬および猫の神経セロイドリポフスチン症はその原因遺伝子候補が十数種類にわたるため、今回の発症動物における病態を詳細に解析し、他の動物種や品種の相同疾患と比較することで、候補遺伝子を検討する。さらに、透過型電子顕微鏡を用いた超微形態プロファイルの解析や酵素活性の測定による生化学的な病態を解析することで、さらに候補遺伝子をしぼりこむ。最終的に候補となった遺伝子をダイレクトDNAシーケンスで調査し、病原性変異を同定する。変異が同定されれば分子疫学調査を実施し、変異アレル頻度を算出する。
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Research Products
(16 results)