2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J07002
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
井上 岳彦 東北大学, 東北アジア研究センター, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | ロシア帝国 / 帝国論 / 仏教 / カルムィク人 / ブリヤート人 / 東洋学 / アジア / サンクトペテルブルグ |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、ロシア帝国の東洋学者による仏教研究の系譜と対アジア政策の関係を明らかにするため、以下の調査・研究および研究成果発表を行った。 9月と2月にロシアでの国外調査を行い、ロシア科学アカデミー・サンクトペテルブルグ公文書館、東洋写本研究所、ロシア地理学協会、ロシア国立歴史文書館、ロシア国民図書館においてアーカイヴ史料を閲覧し、極めて貴重な史料を収集した。この調査によって、S.F.オリデンブルグ、F.I.シチェルバツコイ、A.M.ポズネーエフといった代表的な仏教学者のみならず、その周辺で重要な役割を果たしたロシア東洋学者、仏教僧侶、カルムィク人やブリヤート人の民族知識人の史料を集め、本研究対象の重層的な関係性を見出した。 国外調査と併行して、8回の学会・研究会発表により、研究成果や今後の研究の方向性の精緻化を行った。特に、モンゴルで5年に一度開催されるモンゴル学者の世界大会(8月)において、カルムィク人の巡礼がロシア帝国およびモンゴル・チベットの仏教界に与えた影響について口頭発表を行い、本研究について研究者と意見交換を行った。9月のモンゴルの国際会議「モンゴルと内陸アジア」では、帝政期およびソ連期における一人の僧侶に関する評価を分析することで、仏教研究における公定史観の影響を通時的に明らかにした。3月の研究会発表では今年度の国外調査の成果を総合し、サンクトペテルブルグ東洋学派との関係性のなかで構築されていた仏教徒のネットワークについて論じた。この点については来年度も引き続き検討し、ロシア帝国の仏教研究が対アジア政策に与えた影響について多角的に解明することに努める。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調査対象地に若干の計画変更があったものの、おおむね研究計画に沿った調査を行い、ロシアにおける仏教研究の系譜をおおよそ把握することができた。またロシア帝国内の仏教徒についてカルムィク人のみならずブリヤート人についても調査を行い、サンクトぺテルブルグにおける東洋学者・軍人と仏教徒の関係について検証した。 論文や口頭での研究発表を通じて、現地研究者の有益な助言を得ることもできた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究当初の予想よりも様々なアクターが、ロシア帝国の仏教をめぐる問題に関与していたことが判明したので、引き続きサンクトペテルブルグの東洋学者に関する未公刊史料を調査する。そこで得られた知見を活かしつつ、モスクワの外交文書館での史料収集を開始する。 また平成28年度の研究によって、ロシア帝国の東洋学者と仏教徒は思惑は別だが、共にアジアのみならず西欧の動向に強い関心を抱き、その上で対アジア政策に大小の影響を与えていたことが明らかになった。そのため平成29年度は、ロシア帝国の仏教学者・仏教徒と西欧の関係性という視点を、ドイツを中心とする在外研究を通して補うつもりである。 さらに随時現段階での研究成果を論文および口頭で発表し、その他の研究者との意見交換を通じて、本研究の精緻化を図る。
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