2016 Fiscal Year Annual Research Report
戦後国際通貨体制の動揺と変質ー多極的国際金融枠組みの形成、1963年~1971年
Project/Area Number |
16J07192
|
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
川波 竜三 慶應義塾大学, 法学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | ポンド危機 / スターリング協定 / 通貨外交 / 国際通貨制度 / 国際金融史 / 金ドル本位制 / 国際決済銀行 / 国際通貨協調 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、1960年代の金ドル本位制崩壊期における、ポンド危機の重要性に鑑み、イギリスの通貨政策と対外交渉の関係を軸に研究を進めた。本研究の目的は国家と国際通貨基金、国際決済銀行、G10、といった多極的国際金融枠組みが国際通貨制度の安定と金融秩序の形成にどの程度成果を上げ、その限界はどこにあったのか歴史的分析により包括的に明らかにすることである。彼らが一丸となって取り組んだ問題に1964年から1967年に発生したポンド危機が挙げられ、その対応がその後の通貨秩序に対してどのような影響を及ぼしたのか、その一端を明らかにしようと試みた。そしてその成果として今年1月の日本国際政治学会院生研究会関東地区2016年度第2回研究会において「コモンウェルスとイギリスのポンド政策―ポンド平価切下げからスターリング協定締結までの過程を中心に-」という表題で発表するに至った。この発表に関連した論文については、近々『国際政治』へ投稿予定である。本発表は、昨年6月に赴いた英国国立公文書館、イングランド銀行公文書館の一次史料分析を基にしており、具体的にはイギリス大蔵省、外務省、イングランド銀行の政策決定者、担当者が、スターリング地域との経済関係を踏まえたうえで、どのように自国の通貨政策を実行したのか、また国際決済銀行、G10といった国際機関とどのように協調し、国際通貨秩序に大きな影響を与えるポンドの不安定化に対しどのように対応したのかを明らかにした。ポンドという二大準備通貨の一翼を担う通貨を有するイギリスは、その負担を一手に担う力や意志は最早無かったが、国際通貨協調のためのアメリカ、国際機関との外交を通じて、当時の国際通貨秩序の保護者としての責任を果たし、金ドル本位制の安定化に大きく寄与したと結論付けた。今後はイギリス通貨政策と対外関係を突破口にさらなる研究を進める予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度中に査読付き学会誌へ論文を1本投稿し掲載を目指すという目標のみ達成することが出来なかったものの、概ね研究は年次計画に沿って順調に進捗しており、次年度以降の研究を見据え着々とその布石を打つことが出来た。例えば今後の研究に必要な一次史料収集のため、昨年6月に英国国立公文書館、イングランド銀行公文書館に赴いた。この史料収集においては、1960年代の国際通貨制度に大きな影響を与えたポンド危機の発生に際し、大蔵省、外務省、イングランド銀行の政策決定者、担当者が、スターリング地域との経済関係やEEC加盟問題を踏まえたうえで、どのように対応を行ったのかを調査することが目的であった。その後史料の分析を進め、その結果の一端を1月の日本国際政治学会院生研究会関東地区2016年度第2回研究会において「コモンウェルスとイギリスのポンド政策―ポンド平価切下げからスターリング協定締結までの過程を中心に-」という表題で発表するに至った。この発表に関連した論文については、近々『国際政治』へ投稿予定である。また2月には、米国国立公文書館、ニューヨーク連邦準備銀行公文書館を訪問し、同時期のアメリカ政府のポンド危機への対応と、そのことが国際通貨制度へ与えた影響を考察するための一次史料を収集した。このように、当時の二大準備通貨であったドル・ポンドを有する米英の政策対応についての一次史料の収集とその分析を、まず行ったことで、今後の研究の道筋がおぼろげながら見えてきたことは非常に有意義であった。特に60年代最大の金融危機と言っても過言ではないポンド危機を通じて、当時の国際通貨制度の変容に関与した英米といった国家、国際決済銀行、国際通貨基金といった国際機関、といったアクターの対応とその連関を明らかにすることが、今後の研究の課題と言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
研究計画においては、1960年代に存在した多くの国際金融における問題を取り上げ、それらに関する主体的アクターとしての国際金融組織の対応と国家間関係を包括的に分析する予定であった。しかし、そうすることはあまりにも論点やアクターの数を増加させることととなり、前述したような研究目的を達成するための、体系だった研究を構成、遂行することが極めて困難であるということが、一次史料、二次文献の分析を通じて明らかとなってきた。そのため、1960年代最大の金融危機であるポンド危機とその対応の中心を担ったイギリス政府に焦点を当て、意志を持ったアクターである国際金融組織や他国家とどのような通貨外交を行ったのか、そしてその目的や国際通貨秩序への影響はどのようなものであったのか、今後は明らかにしていく予定である。そうすることで、主たるアクターとしてのイギリス政府の政策決定過程を描きながら、それに影響を与えた国際金融組織及び国際通貨制度の在り方について、明確に照射することが可能になり、研究目的を達成することが可能な研究となると言える。 現在の研究課題を明らかにするための論理構成や文章構成の模索、一次史料や二次文献の収集分析といった学問的な課題の解決と共に、それらの学問的課題の解決を少しでも円滑に行うための環境づくりも含めて、初年度の研究は大きく前進したと言える。 今年度は、前述した投稿直前の論考を完成させた後に、イギリスポンド政策とEEC加盟問題、ポンド危機に対する英米通貨外交に焦点をあて研究を進める。論文執筆を行い、査読付学会誌に投稿し、スピーディーに目に見える成果としての形にして行くことが今年度の課題であると考える。
|