2017 Fiscal Year Annual Research Report
時間的トレンドの推定に関わる視覚情報処理機構の解析
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16J07259
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 弘美 工学院大学, 情報学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 知覚的意思決定 / 心理物理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,動的な視覚情報の持つ統計的性質を人間がどのように把握しているかについての基本的な法則を模索することであった.ある視覚的な特徴値(方位や位相など)が特定の確率分布に従って時間的に変動する単純化された刺激を用いて人間が単純な特徴値の時間平均を判断する際に刺激のオフセット直前や意思決定直前の短い時間範囲の情報を重視していること,その範囲は時間的な分散が大きくなるほど狭いことなどを示した昨年度までの研究結果に加え,該当年度には数字を刺激として用いた場合は,他の視覚特徴を用いた場合と大きく異なり,意思決定直前の情報を重視するという新近性効果が認められず,観察者は提示された全ての時間の情報を等しく用いることを明らかにした.またこの新近性効果の欠如がいわゆる視覚的な「数覚」全般に共通するものなのか,それとも数字に特異的なものなのかを検討するため,ドット列を刺激として用いた場合の時間平均の推定を検討したところ,やはり新近性効果は見られなかった.ここから,数覚に関わる時間平均は他の単純な知覚特徴の時間平均とはことなるメカニズムによって担われていることを示した.これらの結果は複数の国際会議において発表し,現在国際誌に論文を投稿中である. また当初予定していた時間平均の知覚のみならず,時空間統計量や空間的統計量判断について新たな発見があったため,これらの現象についての検討も同時に進めている.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時の2年目までに予定していた,人間が時間的トレンドを判断できるかの基本的な確認と文字や数字,顔表情などを刺激として用いた場合の判断方略の検討については実験と分析をおおむね完了した.現在,親近性効果を含む時間平均判断の動的特性を説明するためには,作業記憶の容量限界やエビデンスの累積に応じた潜在的意思決定の漸次的更新といったモデルが提案されているが,新近性効果が表われないケースを発見したため,現在全ての刺激に対する人間の判断を統一的に説明できる理論モデルを考案中である. また,人間の時統計量推定に関わる視覚情報処理の検討の一環としてテクスチャの空間統計量を系統的に操作したMotoyoshi & Kingdom(2010)の刺激を用いてテクスチャ統計量の把握に関する人間の初期視覚情報処理メカニズムについて検討していた際に,テクスチャ内の共線的構造への順応により後に見るテクスチャ画像が非共線的構造を多く含んで見えるという新しい残効錯視を発見した.そのため,当初の研究計画に加え,この共線性残効のメカニズムを検討する心理物理的実験を行い,現在論文を国際誌に投稿すべく執筆中である. さらに,人間の時間統計量判断のメカニズムに加え,時空間統計量の知覚メカニズムを検討する過程において,テクスチャ刺激の平均方位の判断が,観察時間が長くなるほど難しくなるという,一般的な人間の感覚処理の基本法則に反する現象を発見し,詳細に実験的検討を重ねている.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の予定通り過去の時間平均だけでなく,心変わりや統計的法則に対する潜在的学習効果などについての検討を開始する.関連研究があまりないため実験計画の絞り込みに時間がかかることが予想されるが,過去の時間統計量知覚の研究で得られたノウハウを活かし速やかにパイロット実験を行いたい. 当初の研究計画に加え,2年目に発見した共線性残効のメカニズムについて追加実験を実施する.すでに次年度の国際会議に研究結果を投稿済みであり,論文執筆も完了に近い. また,2年目に発見した初期視覚系の時間統合レンジを超えた時空間統計量推定のメカニズムについて,より詳細な実験的検討と時間統計量と同一の枠組みによる説明を目指す.
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