2016 Fiscal Year Annual Research Report
地球型惑星における水の起源と表層環境進化の解明:惑星海洋学の展開
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16J07403
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小池 みずほ 東京大学, 大気海洋研究所, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 水素同位体比 / ウランー鉛年代 / 地球型惑星の水の起源 / 惑星表層環境進化 / 火星隕石 / ユークライト隕石 / メソシデライト隕石 / 希ガス同位体比 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、地球型惑星における[A]水の起源(供給時期、量、起源天体)と[B]表層環境進化(海洋誕生、維持、散逸)を明らかにすることである。上記目的の為、報告者は、小惑星や火星等の分化天体由来の隕石に着目し、それらが持つ母天体の水の記録の復元を試みた。具体的に、平成28年度中に以下の4項目を行った。 [A-1]小惑星ベスタにおける水の起源の解明:小惑星ベスタの地殻物質とされるユークライト隕石は、地球型惑星形成前の原始惑星の情報を残す。本研究では、ベスタ地殻における水の起源と挙動を探る目的で、隕石リン酸塩鉱物(アパタイト等)のウランー鉛(U-Pb)年代と水素同位体(D/H)比を二次イオン質量分析計NanoSIMSにて調べた。 [A-2]分化石鉄隕石メソシデライトの母天体進化史・熱史の解明:メソシデライトは、ベスタ地殻的な玄武岩と金属鉄が混合した特殊な石鉄隕石であり、その母天体進化史は地球型惑星の初期進化を知る上で重要である。本研究では、原始惑星の形成・分化史を探る目的で、隕石中のジルコン形成年代をNanoSIMSにて調べた。 [B-1]火星隕石に記録された表層水の記録の復元:火星由来の隕石には、火星の表層水の挙動が記録されている。本研究では、火星の表層環境と水との関わりを解明する目的で、形成年代約2億年の若い火星隕石について、アパタイトのU-Pb年代・D/H比を調べた。 [B-2]火星隕石に捕獲された大気成分の、希ガス同位体組成の解明:火星隕石は、火星脱出時の衝撃加熱で溶融した相(衝撃ガラス)中に火星大気を取り込む。衝撃ガラスには多数の気泡が確認されるが、気泡中のガス組成は十分に解明されていない。報告者は化学的に不活性な希ガスに着目し、火星大気組成の直接的な決定を目的に、火星隕石の捕獲大気を真空破砕分析・段階加熱分析にて調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要で述べた4項目について、それぞれの進捗状況を以下に報告する。 [A-1]複数のユークライト隕石が持つU-Pb年代、D/H比を調べて、45.2億年前のベスタ地殻が水に乏しかったこと、一方で、約44ー41億年前のベスタ地表付近に水が供給された可能性があることを明らかにした。これまでの成果を、報告者が筆頭著者として国際隕石学会等で報告した他、国際学術誌への論文を執筆中である。 [A-2]1個のメソシデライト隕石中に見つかった直径200ミクロン程度の大きなジルコンについて、U-Pb年代およびハフニウムータングステン(Hf-W)年代を、NanoSIMSによる局所分析で調べた。その結果、メソシデライト母天体の岩石ー鉄混合イベントが45.2億年以前に生じた事が明らかになった。NanoSIMSを用いた隕石ジルコンのHf-W年代分析は、本研究が世界で始めての取り組みである。この成果について、報告者が筆頭著者として国際学術誌Geophysical Research Lettersに報告した。 [B-1]1個の若い火星隕石について、隕石アパタイトが持つU-Pb年代・D/H比を調べた。その結果、同一隕石中の異なる鉱物相で異なる固有のD/H比を持つ事が明らかになり、現在の火星が、太古の表層水を地下氷等の形で貯蔵している可能性が示された。この成果は報告者が筆頭著者として国際学術誌Geochemical Journalに報告した。 [B-2]複数の火星隕石について、捕獲大気の希ガス同位体組成を段階加熱分析法・真空破砕分析法の組み合わせで調べた。その結果、火星大気は加熱分析では得られるが、破砕分析では得られず、衝撃ガラスの気泡には火星大気が濃集されていない事、大気の捕獲機構として新たなメカニズムを検討する必要がある事を明らかにした。これまでの成果を、申請者が国際会議等で報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要で述べた4項目について、今後の推進方策を述べる。以下それぞれについて、得られた成果を国際会議・国際学術誌への査読付き論文として報告する。 [A-1]小惑星ベスタの水の記録を包括的に理解するためには、より初生的な情報/最近の変成を記録する隕石試料をまんべんなく調べる必要がある。今後、様々なユークライト隕石のU-Pb年代・D/H比のデータセットを得、母天体の地殻形成ー変成史と水との関わりを議論する。 [A-2]メソシデライト隕石はユークライト隕石と非常に近い年代を示す一方で、そのシリケイト部分は還元的で水に乏しいことが知られる。今後、メソシデライトのリン酸塩鉱物が持つU-Pb年代, D/H比を調べ、得られた結果を上記ユークライトと比較することで、太陽系初期の分化小天体に、水が供給/除去される過程の理解を目指す。 [B-1]火星の長期的な環境変動を探るために、今後、古い時代(13億, 40億年前)の火星隕石が残すD/H比などの同位体情報を調べる。更に、新たに局所アルゴンーカリウム年代測定法を立ち上げ、鉱物の低温での変成を調べる。得られた結果を合わせて、火星表層のD/H比の時間進化を見積もり、過去の大気散逸および環境変動を議論する。 [B-2]火星隕石への大気捕獲機構を解明するため、局所希ガス同位体分析法を新たに立ち上げ、隕石の微小領域の捕獲ガスを調べる。更に、13億, 40億年の古い火星隕石にも同様の分析を用い、得られた結果から火星大気進化に制約を与える。
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Research Products
(8 results)
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[Journal Article] Koike M., Sano Y., Takahata N., Ishida A., Sugiura N. and Anand M., Combined investigation of H isotopic compositions and U-Pb chronology of young Martian meteorite Larkman Nunatak 063192016
Author(s)
Koike M., Sano Y., Takahata N., Ishida A., Sugiura N. and Anand M.
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Journal Title
Geochemical Journal
Volume: 50
Pages: 363, 377
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research / Acknowledgement Compliant
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