2016 Fiscal Year Annual Research Report
多様な花色を有するミスミソウを用いた集団内花色多型維持機構の解明
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16J07424
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
亀岡 慎一郎 京都大学, 人間・環境学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 花色多型 / アントシアニン合成経路 / 平衡選択 / ミスミソウ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ミスミソウの多様な花色が集団内に維持されているメカニズムを明らかにするため、分子遺伝学的・生態学的な両側面から統合的なアプローチを試みている。それぞれの分野に関し、今年度は以下の通りの結果を得た。 1:分子遺伝学的研究 分子遺伝学的研究では、集団内で維持されている花色に関わる遺伝子の配列を入手し、多型性をみることで、それらの遺伝子にどのような選択圧がかかっているのか、またどのような変遷をたどってきたのかを明らかにすることを目的としている。今年度はまず、連続的な花色を有するミスミソウの花被片を、超高速クロマトグラフィーを用いて色素成分分析をおこなった。その結果、ミスミソウの花色は、白(アントシアニンを含まない)、赤(シアニジンを含む)、青(シアニジン+デルフィニジンを含む)の三種類に分けられることが示された。次に、これらの大別された花色を用いてRNA-seqによるトランスクリプトーム解析を行った。結果、赤と青の間ではF3’5’Hが、白と赤・青の間では、DFR、ANSや、MYBなどの転写因子の発現量が、それぞれ異なっていることを確認した。 2:生態学的研究 自然集団では、白・赤・青の三色の個体数は、赤>白>青の順に少なくなることを確認した。次にミスミソウの花に飛来する昆虫の観察で、「訪花昆虫」と「食害者」の二種類を確認した。訪花昆虫はハエ・アブ類、コマルハナバチのクイーンが訪花していた。食害者はダイコンハムシなどの甲虫が確認された。食害者は花被片を食し、時に雌蕊や雄蕊まで被害を広げるため、適応度への負の影響が懸念される。訪花者、食害者の影響を花色毎に検討すると、集団内で少数派であった青色が、種子生産量が最も多く、食害度は低い結果となった。少数者有利の機構が花色の多型を維持している力の一つである可能性が考えられ、今後はより詳細に種子生産量と食害度に関して調査を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初予定していた、超高速クロマトグラフィーを用いた花色の成分分析、花弁の反射率から訪花昆虫の色彩認識能力を推定するカラーヘキサゴン、訪花昆虫の観察は滞りなく終了した。 今年度はそれに加えて、RNA-seqを用いたトランスクリプトーム解析を行うことができた。これにより、花色成分の異なる花の間で発現が変動している遺伝子を抽出し、その中からミスミソウ独自の花色発現に関わる可能性のある候補遺伝子を同定するに至った。次年度に予定していた近縁種から作成したプライマーを用いた花色関連遺伝子の特定をより精度の高いレベルで遂行できたため、本研究は今年度、期待以上の進展があったと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
まずこれまでに得られた各花色を呈するために重要であると考えられる遺伝子と、その配列データを用いて、多型性を確認する。中立検定などを用いて、花色に関わる遺伝子にどのように選択圧がかかっているのかを検証する。加えて、各色を明確に分ける領域やSNPsを探り、それらが集団の中で実際にどの程度の頻度で存在しているのかを確認することを予定している。 また早春のミスミソウの開花期にはフィールドに赴き、集団内で少数派の色の適応度が上がるのか、頻度依存性の検証を行う。具体的には色の頻度の異なる複数集団を用いて、食害度、種子生産量などのデータを取得し、花色の頻度が与える影響を評価する。
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Research Products
(4 results)