2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J07497
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
松谷 悠佑 北海道大学, 大学院保健科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 線量率効果 / 細胞周期 / 細胞生存率 / 放射線高感受性 / 数理モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、低線量率放射線を長時間照射した際の細胞周期の変化と放射線感受性の関係を細胞実験と数理モデルにより解析を試みた。その成果の一部は、国内・国際会議で発表するとともに、放射線生物学分野の学術誌にて報告した。 低線量放射線を細胞へ複数回に分けて照射することにより、長時間の放射線照射を再現した。照射法の妥当性は、DNA損傷の誘発とその修復過程を考慮した数理モデル(Microdosimetric-Kinetic (MK)モデル)を用いて評価した。18.6 cGy/hと100 cGy/hの2種類の線量率に着目し、照射中の細胞周期の変化を実測した。100 cGy/hにおける照射では、G1期の細胞集団の割合が次第に減少するとともにG2期の細胞集団が有意に増加した。これに対して、18.6 cGy/hでは僅かなG2期の蓄積しか認められなかった。 一方で、同照射条件下に対する細胞生存率をコロニー形成法によって評価した。照射中の細胞周期分布の変化(高感受性細胞周期の蓄積)に対応するように、100 cGy/hの照射下では従来の予想よりも低い細胞生存率となる傾向がみられた。この実測結果を踏まえ、照射中の細胞周期に依存した核内DNA量の変化を新たに考慮するMK-DNA モデルを開発した。MK-DNAモデルにより推定された細胞生存率は従来のMKモデルより高線量で低くなり、実測値と良い一致度を与える高感受性を示した。 本年度の実測ならびにモデル解析の結果から、100 cGy/hの線量率では、高線量での高感受性現象は照射中の核内DNA量の変化に関係があることが示唆された。本研究の最終目的は、特定の線量率で示される高感受性現象(いわゆる「逆線量率効果」)の誘発メカニズムを解析することである。実測結果とモデル解析による両アプローチから、本年度は、高感受性現象の評価について大幅に研究が進展したと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画として、(1)細胞実験ならびにモデル解析による低線量率放射線感受性の評価と、(2)次年度へ向けたコンピュータシミュレーションの環境づくりを並行して行う予定であった。 前者に対しては、先に記載したように2種類の線量率(100 cGy/hならびに18.6 cGy/h)に対する細胞実験データを取得し、開発した数理モデル(MK-DNAモデル)を用いた解析を行った。特に、100 cGy/hの長時間照射下では、高線量での高感受性現象は照射中の核内DNA量の変化(G2期細胞の蓄積)と相関していることが示された。当初の目標は、特定の線量率に対する放射線高感受性現象(いわゆる、「逆線量率効果」)を評価することであったが、高感受性現象が細胞周期の変化による可能性を見出すとともにその度合いを定量化するまでに至った。 後者に対しては、汎用粒子輸送計算コード(Electron Gamma Shower ver.5: EGS5)と研究室独自のWLTrackコードを組み合わせ、放射線照射後に付与される細胞核内線量を計算する体系を構築した。当初の予定では、次年度でミクロレベルの細胞核線量のバラツキを考慮した細胞生存率の補正を行う予定であった。しかし、低線量の分割照射時には、線量のバラツキによる影響よりも非標的効果(照射細胞から非照射細胞へのシグナル伝達系に伴う細胞死)による影響の寄与が高い可能性が出てきたため、細胞核線量よりも先に非標的効果を考慮しうるようモデルの改良を行った。これにより、予備的な試験では適切な結果が得られることが分かった。 以上のとおり、方針の転換があったものの、計画以上に研究が進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度の研究の推進に対しては、上述の進捗状況を踏まえて、以下の2点について着手する予定ある。 (1)中線量率域に対する細胞周期と細胞生存率の評価:300 cGy/hと600 cGy/hの線量率に対しても同様の実験ならびにモデル解析を行う予定である。すでに細胞実験においては、300 cGy/hならびに600 cGy/hの線量率の条件下で、上述の細胞応答とは異なる結果が得られつつある。この実測データに基づいた新たな仮説をMK-DNA モデルに組み込み、より精密な長時間照射への細胞応答モデルを構築する予定である。 (2)非標的効果を組み込んだ統合型細胞生存率モデルの開発:低線量率照射時には、非標的効果(バイスタンダー効果)の寄与の可能性が高いため、その効果を適切に考慮しうるモデルの改良を(1)と並行してさらに行う。モデルの確立には、低線量分野で活躍中の国内の研究者と海外の研究者の協力を得る予定である。さらにそのモデルを先に開発していたMK-DNAモデルと統合する。その統合型モデルを実測データへ適用し、低線量/低線量率照射後の生体応答(特に細胞間シグナル濃度、シグナル誘発DNA損傷数の動態、細胞生存率)の定量化を図る。 以上の追加評価ならびに非標的効果のモデリングから「逆線量率効果」誘発メカニズムについて、さらなる解析を行う予定である。
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