2016 Fiscal Year Annual Research Report
野外群集動態を定量する新規な統計的手法の開発とその適用による多様性維持機構の検証
Project/Area Number |
16J07614
|
Research Institution | The Institute of Statistical Mathematics |
Principal Investigator |
深谷 肇一 統計数理研究所, データ科学研究系, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 群集動態 / 観測誤差 / 多状態動的サイト占有モデル / 空間平滑化 / 岩礁潮間帯 / 推移確率 / 階層モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、(1)近年提案された統計モデルの拡張によって、群集の空間構造がある場合でも観測誤差に対して頑健、かつ局所群集構造が群集動態に及ぼす影響を定量可能な群集動態推定の新しい手法を開発すること、および(2)開発された手法を用いた群集動態の野外実証研究を実施し、特に安定化機構と中立的機構の相対的重要性の観点から岩礁潮間帯固着性生物群集における生物多様性の維持機構を明らかにすることの2点としている。今年度は目的(1)に関する研究を進めた。 研究代表者らが近年提案した統計モデルを拡張し、観測誤差が生じた場合の観測データの条件付き確率分布が調査定点近傍の局所的な群集構造に依存することを仮定した統計モデルを定式化した。先行手法では、推移確率の推定バイアスを補正するために観測過程に影響する群集組成が空間的に一様であるという単純化された仮定が置かれていたが、この仮定は提案モデルでは緩和されている。多変量ガウスカーネルを用いた空間平滑化により、このモデルは推移確率とともに群集の局所構造の推定を可能とする。これにより、観測誤差の存在下でも推移確率の偏りの少ない推測が可能となるとともに、推移確率と群集の空間構造を関連づけて固着性生物間の局所的な相互作用により駆動される非線形な群集動態を推測するための解析的な基盤が得られた。 この研究成果は国内外の学会で発表を行うとともに、原著論文を国際学術誌に投稿し、受理された。また、次年度以降に開発された手法を用いた実証研究を行うために、北海道東部沿岸・三陸沿岸の岩礁潮間帯で固着性生物群集のモニタリング調査を実施した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は本研究計画の基礎となる統計モデルを構築し、論文として発表できたことから、研究は概ね順調に進展していると考える。ただし、初年度の実施課題として当初並行して進める予定であった人口学的パラメータを推定するための統計モデルの定式化には検討を要する点が見つかったため、こちらは残念ながら計画よりもやや遅れて進展している。来年度の課題として優先的に進めていきたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度に発表した統計モデルを拡張して、固着性生物群集のサイト占有時系列データから人口学的パラメータ(死亡率や移入率など)を推定するための統計的手法を構築する。この手法をこれまでに蓄積されている岩礁潮間帯群集動態の時空間データに適用し、推定される人口学的パラメータの空間変異性を明らかにすることによって、岩礁潮間帯における多種共存機構を安定化機構と中立的機構の観点から考察する。開発する枠組みでは群集の占有動態データから移入率の定量が可能であることを利用して、多種の共存において特に移入(中立的機構)が果たす役割の重要性を実証的に検証する。具体的には(1)局所群集への移入率と種多様性の群集レベルの相関を調べることによって種多様性の決定に対する移入の重要性を明らかにし、(2)死亡率と移入による加入率の種レベルの相関を調べることによって、多種の共存における移入の重要性を検証する。研究成果を学会において発表するとともに、論文としてまとめ国際学術誌へ投稿する。また、岩礁潮間帯における固着性生物群集のモニタリング調査を継続して実施する。
|
Research Products
(7 results)