2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J07692
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
大井 翔太 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | コロール / ラジカル / 金属錯体 / 縮環二量体 |
Outline of Annual Research Achievements |
ラジカル種は反応性が高く不安定であるため、物性評価が困難な化学種である。そのため安定なラジカル種の合成と物性評価は重要な課題と考えられている。これまでの安定なジラジカル性を発現する分子デザインとしては、キノジメタン構造を多環芳香族に導入することによる局所的なベンゼン構造による安定化を駆動力にしたものが多く報告されていた。これに対して私は、2NH型コロールが安定なラジカル性を発現するのに適した分子骨格であることを発見した。具体的な研究対象の分子は、三重縮環コロール二量体のガリウム錯化による酸素架橋二量体やコロールのコバルトシアノ錯体、2NH型メゾーメゾ結合コロール二量体のフリーベース体の三種類を考えている。これら新規化合物の構造や電子物性、ラジカルの発現機構について詳細を調べることを目的とした。 三重縮環コロール二量体のガリウム錯体については、興味深いことに二つの三重縮環コロール二量体ガリウム錯体のアキシアル位が酸素原子で架橋された四量体が得られることが判明した。また各種測定の結果から、この架橋四量体はビラジカル構造を二つ有する開殻種であることが分かった。X線結晶構造を見るとこの分子は非常に曲がった構造を有しており、結合長から中心の二重結合性が弱まっていることが観測された。このことから、酸素架橋構造をとることによる構造的な歪みにより中心の二重結合が開裂してジラジカル性を発現したと考えられる。 コロールのコバルトシアノ錯体については、アキシアル位にシアノ基が配位することで、コロールが中性三価から二価ラジカルカチオン種に変化することを見出した。またフリーベースの二量体についても二価中性ジラジカルを発現できることが判明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で、三重縮環コロール二量体のガリウム錯化による酸素架橋二量体においてジラジカル性を発現する機構は、構造的湾曲が原因であることが分かった。構造や光学・電気化学・磁気物性については質の高いデータをそろえることができたが、計算化学による検証が不十分であるため、今後の課題と考えている。コロールコバルトシアノ錯体や2NH型フリーベース二量体については、光・電気化学的測定は終了したが、磁気測定や計算化学はまだ不十分であるため、今後行うことを予定している。またコロールのコバルトシアノ錯体はラジカルカチオン種であり、コロール二量体が縮環する際の中間体であるとも考えられるため、縮環の反応機構を考察するうえでも非常に興味深い化学種である。実際にこれらの分子において酸化的縮環反応を行うと、興味深いことに三重縮環でなく、二重縮環で止まった生成物が確認された。フリーベース体の縮環反応では三重縮環体が優先して生成するため、8,10位で結合した二重縮環体はこれが初の例である。2NH型メゾーメゾ結合コロール二量体のフリーベース体については、温度可変ESRスペクトルを測定してT-ITプロットを作成したところ、通常のSTモデルから外れる挙動が観測された。これは通常のスピン間の相互作用だけでなく、メゾーメゾ結合の回転が影響した複合的な現象が起こっているものと考えられ、今後さらに詳細を調べる予定である。またこれらラジカル種は安定であることを確認しているが、安定性を定量的に評価する方法が統一されていないため、今後安定性の評価方法についても考えていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、三重縮環コロール二量体のガリウム錯化による酸素架橋二量体においてジラジカル性を発現する機構は、構造的湾曲が原因であることが分かった。構造や光学・電気化学・磁気物性については質の高いデータをそろえることができたため、この理論をサポートするための計算化学を引き続き検討する。具体的には構造的湾曲度合いに応じて、ジラジカル性やスピン密度の変化を調べることを予定している。また新しいテーマとしてコロールのコバルトシアノ錯体が、コロールラジカルカチオンとしての性質を発現することを見出している。この新規錯体の電子物性を調べるため、温度依存磁化率測定やESR測定を行うことを予定している。またコロールの置換基によってもコバルトシアノ錯体の合成や物性が変化することが予想されるため、置換基のバリエーションを増やすことも検討する。コバルトシアノ錯化の収率を向上させるため反応条件の検討を引き続き行う。2NH型メゾーメゾ結合コロール二量体のフリーベース体についても同様の磁気測定や置換基依存性、反応条件の検討を行う。メゾーメゾ結合コロール二量体のフリーベース体については通常のスピン間の相互作用だけでなく、メゾーメゾ結合の回転が影響した複雑な磁気物性を示すため、正確に解釈したうえで、結論を出す必要がある。コロールのコバルトシアノ錯体と2NH型メゾーメゾ結合コロール二量体のフリーベース体は、コロール二量体が縮環する際の中間体であると考えられるため、縮環の反応機構を考察するうえでも非常に興味深い化学種である。実際にこれらの分子においても酸化反応によって縮環反応が進行することが分かったため、反応条件の検討を行うことも計画している。
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