2016 Fiscal Year Annual Research Report
LMO関手の拡張を用いた境界付き曲面とコボルディズムの研究
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16J07859
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野崎 雄太 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | ホモロジーコボルディズム / ホモロジーファイバー結び目 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究課題に含まれる「境界付き曲面とコボルディズム」の研究に際して、特にホモロジーコボルディズムに着目して研究を行った。ここでホモロジーコボルディズムとは、ホモロジー的に「境界付き曲面と閉区間の直積」であるようなコボルディズムである。このようなコボルディズムに着目した理由を説明する。一般に、曲面と区間の直積であるようなコボルディズムにおいて、上下の曲面を合わせることにより閉 3 次元多様体が得られる。逆に任意の(連結で向き付けられた)閉 3 次元多様体は、そのようなコボルディズムから得られることが知られている。このときの曲面の種数の最小値 op(X) は 3 次元多様体 X の基本的な不変量であり、基本群やホモロジー群の生成元の最小数さらに Heegaard 種数などと関係がある。(なお op という記号はオープンブック分解に由来する。実際、連結なバインディングを持つ X のオープンブック分解におけるページの種数の最小値が op(X) に他ならない。) しかし op(X) を決定することは一般に困難である。そこでホモロジー的に直積であるコボルディズム(ホモロジーコボルディズム)まで範囲を広げることにして、類似の不変量 hc(X) に着目した。hc(X) は比較的計算しやすい不変量である。実際、整係数 1 次ホモロジー群が自由 Abel 群の場合は逆井によって決定されていた。しかし 1 次ホモロジー群がトーションを持つ場合には限定的な結果しか知られておらず、新しい発想が求められていた。申請者はトーションを持つ場合で最も基本的なレンズ空間に着目し、「任意のレンズ空間 L(p,q) に対して、hc(L(p,q))=1 が成り立つこと」を証明した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コボルディズムへの幾何的操作を導入し、Lagrangian q-コボルディズムの成すモノイダル圏の代数構造について理解を深める計画だったが、この点についてはやや遅れている。 一方、「研究実績の概要」で述べたホモロジーコボルディズムに関する研究では大きな成果が得られた。特に主結果「任意のレンズ空間 L(p,q) に対して、hc(L(p,q))=1 が成り立つ」は,一般の閉 3 次元多様体 X に対する hc(X) そして op(X) を決定する上で重要なステップとなる。なお、1 次ホモロジー群は同型だが hc は異なるような例が知られており、したがってこの結果は非自明なものである。 また主定理の証明で鍵となったのは、整数論における Chebotarev の密度定理であり、独自性の高い証明手法となっている。具体的には、ある連立不定方程式に整数解が存在することを密度定理から導き、その解を用いて全ての L(p,q) 内に種数 1 の「良い」曲面が存在することを証明した。ここで良い曲面とは、その曲面に沿って L(p、q) を切り開くと補空間がホモロジーコボルディズムとなるような曲面である。このようにホモロジーコボルディズムに関する上述の研究については、当初の計画以上に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
「現在までの進捗状況」で述べた Chebotarev の密度定理とは、数体の有限次元 Galois 拡大において Artin 記号 が Dirichlet 密度に関して均等に分布していることを主張する定理である。例えば Dirichlet の算術級数定理は密度定理の特別な場合である。また Artin 記号とは Legendre 記号(平方剰余記号)の一般化であり、Galois 群の元として定義される。 「研究実績の概要」で述べた主結果の証明において、整係数 2 次形式とその判別式に関する古典的な事実も重要な役割を果たしている。このようにホモロジーコボルディズムの研究に対して、整数論が有効な手段を提供してくれることがわかった。そこで今後は整数論との関係に着目して「境界付き曲面とコボルディズム」について研究を遂行し、hc(X) 及び op(X) の理解につなげたい。 また以上の研究を通して今年度に得た知識や経験を生かして、「Lagrangian q-コボルディズムの成すモノイダル圏」の代数構造に関する理解を深めることができると考えている。そしてこの圏を始域とする LMO 関手(の拡張)の研究を進めたい。
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[Presentation] LMO 関手の拡張2016
Author(s)
野崎雄太
Organizer
トポロジー金曜セミナー
Place of Presentation
九州大学(福岡県福岡市)
Year and Date
2016-07-29 – 2016-07-29
Invited
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