2016 Fiscal Year Annual Research Report
出血性ではなく逆に血栓性素因となる凝固因子異常症の分子病態解析とその検出法の開発
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16J08029
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
高木 夕希 名古屋大学, 医学系研究科(保健), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | トロンボモジュリン抵抗性 / 静脈血栓症 |
Outline of Annual Research Achievements |
原因不明の静脈血栓症発症要因究明と個々に最適な抗血栓薬選択を目指した凝固因子異常症の分子病態解析と検出法開発を目的とした。 28年度は596Argミスセンス変異型トロンビンとトロンボモジュリン(TM)との相互作用解析を中心に研究し、分子間相互作用解析装置Biacore を用いて596Arg ミスセンス変異型トロンビンとTMとの相互作用を評価した。組換え型可溶性TM(sTM)を固相化したセンサーチップ上に野生型/4 種類の596Arg ミスセンス変異型(596Leu, 596Gln, 596Trp, 596Gly)トロンビンをそれぞれ添加したとき、各変異型トロンビンとsTM との結合レスポンス及び結合定数は様々な値を示した。生理的な塩化ナトリウム濃度ではsTM との結合レスポンスは野生型, 596Gln, 596Leu, 596Trp, 596Gly トロンビンの順に高かったが、これは以前に実施済みのTM によるトロンビン活性阻害能を評価したフィブリノゲン凝固法の結果を支持した。 Biacore を用いて塩化ナトリウム低濃度条件下におけるsTM と各変異型トロンビンとの結合量を評価した結果、対象とした全てのトロンビンで生理的条件下よりも高い結合レスポンスを示した。特に596Leu トロンビンとの結合レスポンスが著しく上昇した一方で、596Gln トロンビンとの結合レスポンスはわずかにしか上昇しなかった。置換したアミノ酸の荷電の差により変異型トロンビンとNa+との結合しやすさに差が生じたものと考えられ、トロンビン-Na+結合能の差がトロンビン-TM結合能に影響を及ぼすことが示唆された。596Arg ミスセンス変異型トロンビンが生理的抗凝固システムに抵抗することを詳細に解析したこれまでの研究成果を英文論文にまとめ、Thromb. Haemost. 誌に報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
596Argミスセンス変異体とTMとの相互作用解析は当初の計画では生理的条件下での相互作用を評価する予定であったが、得られた結果から「Arg596 がトロンビンのNa+結合領域に位置しているために変異型トロンビンとNa+との結合に障害が生じた結果、トロンビンの立体構造変化が損なわれる」という仮説が立てられたため、塩化ナトリウム低濃度条件下での相互作用まで比較することができた。これにより596Argミスセンス変異がTMとの相互作用に及ぼす影響をより詳細に解析することができた。 トロンボモジュリン (TM) 抵抗性検出法の応用では当初の計画通り、プロトロンビン時間法を利用することで臨床検体でもTM 抵抗性を検出可能な測定系が確立できた。また析法の開発に向けて、活性化凝固第X 因子(Xa)の不活化動態解析法の開発に向けて、野生型/変異型凝固第X 因子(FX)発現ベクターを構築した。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、原因不明の静脈血栓症発症要因究明と個々に最適な抗血栓薬選択を目指した凝固因子異常症の分子病態解析と検出法開発を目的とする。 28年度で確立した TM抵抗性検出・応用法を用いて原因不明の静脈血栓症患者血漿のTM抵抗性スクリーニングを実施し、静脈血栓症患者におけるTM抵抗性の頻度を明らかにする。スクリーニングで新たなTM抵抗性トロンビンが発見された時、その変異型トロンビンとTMとの結合速度等を測定し、TM抵抗性の静脈血栓症への寄与を明らかにする。 28年度に構築した野生型/変異型FX発現ベクターを培養細胞に導入後、薬剤耐性・WB解析により変異型FX安定発現細胞株を樹立する。樹立した各種FX安定発現細胞株の培養上清を限外濾過にて濃縮後、ELISA法にてFX抗原量を測定する。Xaの不活化動態の評価に最適な発色性合成基質を決定し、分光光度計を用いてXa活性検出法を確立する。ATによるXa不活化の評価に最適なAT添加条件を設定し、Xa不活化動態評価法を確立する。原因不明の静脈血栓症患者血漿で異常XaのAT抵抗性スクリーニングを実施し、静脈血栓症患者におけるAT抵抗性Xa異常症の検出を行う。抗Xa薬効評価に向けてXa不活化動態評価法への抗Xa薬添加条件を設定する。
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