2017 Fiscal Year Annual Research Report
孤立した反応活性点の特性を活かした高難度有機酸化反応触媒系の構築
Project/Area Number |
16J08114
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
井坂 祐輔 大阪大学, 工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 光触媒 / Metal-Organic Framework / 過酸化水素 |
Outline of Annual Research Achievements |
現在、工業プロセスで用いられる酸化反応の酸化剤には、主に無機酸化剤が用いられている。しかしこれらの無機酸化剤は化学量論量以上の廃棄物が生じる事が課題となってきた。そこで本研究では、これらの無機酸化剤を代替するべく、酸素を酸化剤として用いる光触媒的な有機基質酸化反応系の構築を目的に研究を行っている。 これまでの研究で、Metal-Organic Framework(MOF)と呼ばれる有機分子と微小な金属酸化物クラスターの複合体の一種、MIL-125-NH2を光触媒として用いると、ベンジルアルコールの酸化と共役して酸素の還元反応が進行し、酸化生成物としてベンズアルデヒド、還元生成物として過酸化水素が得られることがわかった。過酸化水素は酸化力が高い事に加え、還元生成物として水しか生成しないことから、環境にやさしい酸化剤として以前より注目されている。加えて隔膜のいらない、コンパクトかつ安価な1室型燃料電池の燃料としても用いられることから、次世代型の燃料としても注目されている。 本年度の研究においては更なるMIL-125-NH2光触媒の改善を行い、微小なニッケル酸化物を担持することによってさらに高選択的に過酸化水素が得られることがわかった。またその反応メカニズムについても検討を行い、光励起されたMIL-125-NH2から酸素への1電子移動によってスーパーオキシドラジカルアニオン中間体が得られ、反応性の高いこのラジカル種がニッケル酸化物表面で過酸化水素に効率よく不均化することで過酸化水素生成の効率が向上した事が示唆された。一方で酸化されたMIL-125-NH2はベンジルアルコールにより還元を受けて基底状態が再生する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度はまずMIL-125-NH2を光触媒としたベンジルアルコール酸化と共役した過酸化水素生成反応について、その反応メカニズムの検討を行った。各種化合物の存在下での発光クエンチを検討した結果、光励起されたMIL-125-NH2は酸素により酸化的にクエンチされてスーパーオキシドラジカルアニオンを生じ、次いでベンジルアルコールにより還元されてMIL-125-NH2が再生することがわかった。スーパーオキシドラジカルアニオンは不均化を経て過酸化水素を生じることが報告されている。中間体であるスーパーオキシドラジカルアニオンはDMPOとの付加体としてEPRにて存在を確認した。MIL-125-NH2はリンカーとなる2-aminoterephthalic acidとTi8O8(OH)4クラスターからなるMOFであり、リンカー部位に存在するアミノ基を利用することにより微小な金属や金属酸化物の粒子を担持できることが報告されている。そこで各種金属をアミノ基を利用する方法により担持し、これら金属担持の光触媒的過酸化水素生成への影響について検討を行った。特にパラジウムやニッケル酸化物を担持した場合に高い活性が得られたことからその原因について検討を行ったところ、ニッケル酸化物担持MIL-125-NH2を用いた場合にEPRで検出されるスーパーオキシドラジカルアニオンの生成速度が低下することがわかった。従って、ニッケル酸化物の存在下では生じたスーパーオキシドラジカルアニオン中間体が速やかにH2O2に不均化されることが示唆された。スーパーオキシドラジカルアニオン存在下ではH2O2が水へと還元されることが報告されており、反応性の高いスーパーオキシドラジカルアニオン種の濃度を速やかに低下させることによりニッケル酸化物存在下での高効率な過酸化水素生成が実現したものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究において、可視光応答性を持つMIL-125-NH2を用いるとベンジルアルコールの酸化反応と共役した酸素還元による過酸化水素生成が進行する事を見出している。これまでの研究で用いて来た触媒系においては、生成物であるベンズアルデヒドと過酸化水素が同一溶液中に存在しているため、分離が困難となっていた。そこで現在、MIL-125-NH2に疎水性を付与し、油層と水相の2相からなる反応系において油層で反応を進行させ、生成物の内過酸化水素だけをその親水性を利用して水相に移動させる事によって生成物を単離できる触媒系の構築に取り組んでいる。すでに疎水性MIL-125-NH2の合成に成功し、実際に反応試験に応用すると生成物が分離され、油層でのみベンジルアルコールの酸化生成物であるベンズアルデヒドが、また水相でのみ酸素の還元生成物である過酸化水素が観測された。ところで過酸化水素は弱酸性水溶液中で安定化することが知られている一方で、MOFを賛成溶液中に分散させるとリンカーのカルボン酸部位がプロトン化されて構造が崩れてしまう。本研究で用いている2相系ではMOFは有機層に局在していることから水相のpHを適切に調整することにより、過酸化水素の分解を抑えてより効率的に過酸化水素が得られるものと考えられる。また、一般に過酸化水素水溶液の濃縮には大きな危険が伴うが、本反応系のような2相系を用いれば水相の量を調整することで高濃度の過酸化水素を得ることも可能であると期待されるので、今後検討を行う。加えて有機層で行う酸化反応についてもさらに高難度な反応に挑戦し、高難度酸化反応と共役させた光触媒的過酸化水素生成の実現を目指す。
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