2016 Fiscal Year Annual Research Report
脱髄性神経疾患に対する再生治療最適化の為の細胞培養マイクロデバイスの開発
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16J08175
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒井 洸児 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 神経軸索 / グリア細胞 / 微細加工 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,神経軸索へのミエリン鞘の形成を促す薬剤の効果と神経活動頻度との相互作用を評価することであり,その手段としてマイクロ培養デバイスを開発する.要素技術として,微小流路による薬剤濃度の精密な振り分け,微小流路内に誘導した神経軸索とミエリン形成グリアを共培養する環境の構築方法,および軸索における活動伝播速度を指標としたグリア細胞の成熟度合いの評価手法が必要である.初年度にあたる本年度は,1) 微小流路内におけるグリア細胞の培養手法の検討,2) グリア細胞の成熟による伝播速度への影響評価に主に取り組んだ. 1) 微小流路内で安定してグリア細胞を培養するために,グリア細胞を自発的に微小流路内へ遊走させる方法を試験した.微小流路を用いて軸索を評価した従来研究では中枢神経系の神経細胞が主に用いられていた一方で,本研究ではシュワン細胞の遊走性に着目し末梢神経系の細胞を用いた.後根神経節細胞とシュワン細胞を微小流路外に培養したところ,軸索の伸長とともにシュワン細胞が自発的に微小流路内を遊走し全体を占めることを明らかにした.また,アスコルビン酸を添加することでシュワン細胞のミエリン鞘形成を誘導できることを確認した.本実験によりグリア細胞のサイズに合わせて微小流路のサイズを設計することで,微小流路内でグリア細胞の配置を制御しミエリン鞘を形成できる可能性を示した. 2) 微小流路内に配置した電極から電気刺激の印加および電気活動計測を行い,シュワン細胞の成熟と軸索伝播速度との関係を評価した.結果として,シュワン細胞の存在下では非存在下と比較して速度が上昇することを明らかにした.一方で,シュワン細胞による影響はミエリン鞘形成には依存しないことを示し,液性因子による軸索への影響を示唆した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本課題は,脱髄性神経疾患に対する再生治療の実現に向けて,様々な生体環境を模擬したマイクロ培養デバイスを用いてミエリン鞘形成の効率化手法を模索するというものである.初年度にあたる本年度は,基礎技術として,微小流路の内部への軸索の伸長およびミエリン鞘形成グリアであるシュワン細胞の遊走を安定して維持する手法を確立した.また,微小流路に配置した電極から電気信号を計測することで軸索伝播速度の評価を行った.シュワン細胞を軸索周囲に維持することが可能になったために,軸索伝播速度にシュワン細胞が影響する過程を評価することに成功した.具体的には,ミエリン鞘形成に依存しない液性因子の影響を可視化することが出来た.本年度の研究により得た技術は,微小流路内の細胞培養環境を制御し髄鞘再生に与える影響を評価するために必須の技術である.また,マイクロ培養デバイスの機能として軸索伝播速度の値からミエリン鞘形成の程度を評価する上で,ミエリン鞘形成に依存しない要素が影響することが明らかとなったことは当初予定していた以上の進展である.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,要素技術の確立を引き続き行うとともに,技術の統合および実用化を図る.具体的には,軸索とグリア細胞を培養するための微小流路構造の再検討に加え,液性操作のための微小流路を電極基板上に集積し,電気刺激によるミエリン鞘形成への影響と薬剤濃度との関連性を評価することを目指す.特に軸索とグリア細胞の培養環境に関しては,本年度の研究成果により髄鞘化したシュワン細胞と髄鞘化以前のシュワン細胞による影響を分離して評価する必要性が明らかとなったため,より精密に培養環境をコントロール可能な微小流路の設計を目指す.具体的には,これまで単一電極に対して軸索束を計測していたために低かった観測精度を改善するために,単一電極あたりに単一軸索を配置する構造を設計し,その周囲にグリア細胞を生着させる方法を検討する.また,電気刺激の印加に関しては慢性的な刺激印加のための実験システムの構築から着手し,液性制御のための流路設計と並行して研究を進める.
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Research Products
(6 results)