2017 Fiscal Year Annual Research Report
近年の地球環境変動が北極域の氷河暗色化に及ぼす影響の評価
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16J08380
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Research Institution | National Institute of Polar Research |
Principal Investigator |
永塚 尚子 国立極地研究所, 研究教育系, 特別研究員(PD) (30733208)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 鉱物の起源 / 走査型電子顕微鏡(SEM) / アイスコア / グリーンランド |
Outline of Annual Research Achievements |
グリーンランド氷床北西域に飛来する鉱物の起源および供給プロセスの時間変化を明らかにするために,走査型電子顕微鏡を用いて氷床上で掘削されたアイスコア中の鉱物粒子の形態観察を行った.1920-1980年までの60年分のサンプルを観察した結果,鉱物の粒径はいずれも3μm以下と非常に小さく,長距離輸送の目安となる5μmを下回った.しかしながらその粒度分布は年によって異なり,1960年以降のサンプルにはより粒径が細かい粒子が多く含まれていた.このことから,アイスコア試料中の鉱物は主に遠方から供給されているが,その起源は時代とともに変動していると考えられる.次に,エネルギー分散型X線分析検出器を用いて鉱物の表面化学成分を分析した結果,アイスコア中の鉱物はケイ酸塩鉱物が8割を占め,なかでも粒径の細かい粘土鉱物の割合が大きいことがわかった.しかし,その組成はサンプル間で大きく異なり,異なる風化プロセスで形成される鉱物の割合が10-15年周期で互いに逆のセンスで変動していた.このことは,氷床上の鉱物が複数の地質起源から供給されていることを示している. さらに,1920年から1950年は他の年代に比べて粘土鉱物が少なく,石英と長石が3倍以上多く含まれていた.石英・長石は粘土鉱物に比べて粒径が大きく長距離輸送されにくいことから,この2つの鉱物の高い割合は,氷河周辺の堆積物からの鉱物供給の可能性を示していると考えられる.この期間はグリーランドを含めた全球で気温が上昇傾向にあった時期に一致しており,氷床縁辺部における積雪が少なく周辺の堆積物が露出してこのような起源からも氷床上へ鉱物が供給された可能性が示唆された. 以上,本研究の成果によって,まだその詳細がほとんど明らかになっていないグリーンランドのアイスコア中の鉱物粒子の起源や,さらには過去の環境変動復元に関する理解が進むと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年度に北極の氷河での調査を行う計画を立てているため,当初の予定では最終年度に予定していたグリーンランド氷床アイスコア中の鉱物粒子の分析を前倒しして行い,過去60年間における鉱物組成の時間変化について明らかにすることができた. さらに,これまでに分析を終了している黒色炭素の電子顕微鏡観察結果についてもデータをまとめて論文の執筆に入っており,本研究はおおむね順調に進展している.
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,グリーンランド氷床アイスコアの暗色物質の分析を進める.このアイスコアの長さは222.72mで,これまでに分析が完了しているのは,そのうちの深さ16.3 から35.5 m(1920-1985年に相当)である.今年度は温暖化の影響をより顕著に受けたことが明らかになっている1980年以降のサンプルを中心に分析を進め,近年の地球環境変動が氷床上に飛来する鉱物の起源や組成にどのような変化を与えているのかを考察する. さらに,グリーンランド南西部のラッセル氷河において広域調査を行い,表面のクリオコナイト(暗色不純物)のサンプリングおよびSr-Nd同位体分析を行う.ラッセル氷河周辺では,近年,表面のクリオコナイト量が増加して暗色域が拡大しており,世界中の研究者の注目を集めている.本研究のこれまでの同位体比を分析の結果から,ラッセル氷河では末端付近と中,上流域で鉱物が異なる時代に異なる起源から供給されていた可能性があることが示唆された.しかしながら,その起源に関する情報はまだほとんどなく,サンプルの採取地点も少ないため詳しいことはわかっていない.今年度の調査では,より詳細な鉱物の起源推定を行うため,末端からの距離が異なる氷河上の複数の地点にエアロゾルサンプリングを行う装置を設置し,氷河周辺の堆積物および遠方から飛来する鉱物を直接捕集して分析する.さらに,氷河の横断,縦断方向でクリオコナイトのサンプリングを行い,氷河上の同位体マップを作成することでラッセル氷河における鉱物の詳しい供給プロセスと暗色化拡大のメカニズムについて理解する.また,クリオコナイト量増加のもう一つの要因として考えられる有機物の生産過程についても明らかにするため,氷河上微生物の栄養塩源となる鉱物からの溶出成分濃度についても分析を行う.
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Research Products
(5 results)