2016 Fiscal Year Annual Research Report
ネコモルビリウイルスによる間質性腎炎発症機構の解明とワクチンによる予防法の確立
Project/Area Number |
16J08397
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
坂口 翔一 東京農工大学, 農学部, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | ネコモルビリウイルス / 慢性腎不全 / 自然免疫応答 / 欠陥干渉ウイルス粒子 / リバースジェネティクス / 次世代シークエンス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、ネコモルビリウイルスによる腎炎発症機構の解明である。ネコモルビリウイルス感染によるインターフェロン誘導遺伝子の発現解析および、今後実施予定の次世代シークエンス解析による突然変異解析の前段階として、尿中に含まれるウイルスの網羅的検出を試みた。 ネコの腎炎が起こる機序のひとつとして、宿主の自然免疫応答による組織へのダメージが考えられ、ウイルス感染と自然免疫応答の関係を明らかにすることは腎炎発症機構を明らかにする上で重要である。我々は、ネコモルビリウイルス感染細胞からRNAを抽出し、インターフェロン、インターフェロン応答遺伝子、サイトカインのメッセンジャーについて定量的RT-PCRを行ったところ、複数のインターフェロン、インターフェロン応答遺伝子およびサイトカイン遺伝子の発現上昇がみられ、ネコモルビリウイルス感染によってこれらが誘導されることがわかった。本結果はネコモルビリウイルスによる自然免疫応答の誘導が腎炎の原因となっている可能性を明らかにした。 ネコパラミクソウイルスは2015年にドイツで発見されたウイルスで、既知のパラミクソウイルスとは遺伝的に異なるグループを形成する。ネコパラミクソウイルスはネコモルビリウイルスとともに、ネコの慢性腎炎との関与が疑われているため、日本での感染状況の調査は重要である。我々は、動物病院に来院したイエネコから尿および血漿、合計100検体を採取し、ライブラリを作製した。次世代シークエンス解析結果を既知のネコパラミクソウイルスゲノム配列上にマッピングしたところ、一致する複数のリードが得られた。得られた候補配列に対するプライマーを作製し、RT-PCRを行ったところ、複数の日本株が検出された。本研究は日本で初めてネコパラミクソウイルスを検出し、日本独自株の存在を明らかにした。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は計画1年目のネコモルビリウイルス分離株を用いた感染実験の前段階として、ネコモルビリウイルス感染による宿主の自然免疫応答を調べ、またリバースジェネティクス技術を用いたネコモルビリウイルスの人工合成系の改良に取り組んだ。また、ネコモルビリウイルス野生株を接種した猫の組織からRNAを抽出し、ウイルスの検出を試みた。さらに、今後予定されている不活化ネコモルビリウイルスワクチン作製で使用する中和試験法の確立、次世代シーケンサーを用いた、尿中に含まれるウイルスの網羅的検出を試みた。 ネコモルビリウイルス感染による宿主の自然免疫応答について調べた結果、ネコモルビリウイルス感染細胞では複数のインターフェロン、インターフェロン誘導遺伝子およびサイトカイン遺伝子の発現上昇がみられ、ネコモルビリウイルス感染によってこれらが誘導されることがわかった。 ウイルスの人工合成系の改良では、既存のミニゲノムプラスミド中のリーダー配列およびトレーラー配列を日本分離株の配列に置き換えることにより、株間の比較を行ったが大きな改善はみられず、異なる改善法が必要であることがわかった。 感染実験を行なった猫の組織から、Taqmanプローブを用いたネコモルビリウイルス特異的定量RT-PCRを行なった。ウイルス接種によってCRPの上昇がみられ、炎症が起こったことは確認されたものの、組織からのウイルスの検出には至らなかった。 日本分離株を用いてネコモルビリウイルスの中和試験法を試みたところ、ネコモルビリウイルスに対する中和抗体を高感度に検出することに成功した。異なる遺伝型のウイルス株に対する中和活性の差はみられなかった。 尿中に含まれるウイルスの網羅的検出を試みたところ、尿由来RNAのプール中から、複数のネコパラミクソウイルス様配列が検出され、そのL遺伝子の配列はドイツ株と90%の一致率を示した。
|
Strategy for Future Research Activity |
1年目の計画に引き続き、リバースジェネティクス技術を用いたネコモルビリウイルスの人工合成系の確立と改良に取り組むとともに、ネコモルビリウイルス野生株に合成遺伝子の導入を試み、病原性の解明に必要な実験系の構築を行う。また、次世代シーケンサーを用い、ウイルス感染細胞に含まれる特異的マイクロRNAの特定を行い、特定されたマイクロRNAがウイルス増速速度に与える影響など、病原性との関わりを明らかにする。さらに、ウイルス感染猫の尿からも特異的マイクロRNAの特定を行い、腎疾患特異的に発現するマイクロRNAの検出と合わせて、病態との関わりを解析する。 1年目の研究により、ネコモルビリウイルス感染細胞では不完全なゲノムが作られており、欠陥干渉粒子が産生されていると考えられた。そこで、この欠陥干渉粒子が宿主の免疫に与える影響を調べ、抗ネコモルビリウイルスワクチンのアジュバントとしての可能性を検討する。 ネコモルビリウイルス野生株のH遺伝子およびF遺伝子をクローニングし、G遺伝子をGFP遺伝子と置き換えた組換え水泡性口炎ウイルスのゲノムをもつプラスミドとともに、様々な猫由来培養細胞にトランスフェクションし、シュードタイプウイルスの作製を試みる。また、ネコモルビリウイルスと同じ属に属する麻疹ウイルスやイヌジステンパーウイルスが受容体として用いているSLAMおよびNectin4をクローニングし、これらを強制発現させた培養細胞におけるシュードタイプウイルスおよび野生株の感染性を調べる。 ブレビバチルスによるタンパク質の大量発現系を用い、ネコモルビリウイルスの構造タンパク質の大量合成を行い、ウエスタンブロットによる抗ネコモルビリウイルス抗体のプロファイリングが可能な系を作出する。
|
Research Products
(6 results)