2016 Fiscal Year Annual Research Report
Shewanella属細菌の嫌気呼吸を制御するシグナル伝達機構の解明
Project/Area Number |
16J08653
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Research Institution | Tokyo University of Pharmacy and Life Science |
Principal Investigator |
笠井 拓哉 東京薬科大学, 生命科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | Shewanella属細菌 / cAMP/CRP制御系 / 乳酸代謝 / アミノ酸代謝 |
Outline of Annual Research Achievements |
発電菌Shewanella oneidensis MR-1株は金属還元細菌であり、多様な呼吸能を持つことが知られている。また、固体電極への電子伝達も可能であるため、微生物燃料電池などの微生物電気化学システム(BES)への応用に期待されている。 これまでに我々は、MR-1株は細胞外の電子受容体を利用し呼吸を行う際に重要な機能を担うMtrタンパク質群をコードする遺伝子(mtr遺伝子)がグローバルレギュレーターであるcyclic AMP(cAMP)receptor protein(CRP)によって直接発現制御を受けていることを示した。 CRPは多くの細菌に保存されている転写因子であり、補因子であるcAMPと複合体を形成することで、標的遺伝子の転写誘導を活性化することが知られている。MR-1株ではCRP制御系は主に嫌気呼吸系の発現制御に関与していると考えられているが、その生理機能やシグナル伝達機構は不明な点が多い。そこで本研究ではShewanella属細菌の嫌気呼吸系を制御するシグナル伝達機構の解明を目的とし、研究を行っている。本研究の成果は本株のmtr遺伝子の詳細な発現機構の理解やBESの高効率化の足がかりとなるだけでなく、環境微生物の生態を理解する上でも重要な知見となると考えられる。 平成28年度はMR-1株のCRP制御系における2つの新たな生理機能を発見したため、その解析を進めた。1つ目の発見はcAMP加水分解酵素(CpdA)をコードする遺伝子の破壊株の貧栄養培地における増殖阻害である。トランスクリプトーム解析等を用いた研究の結果、本変異株は一部のアミノ酸を合成できないことが示され、CpdAがアミノ酸合成系の発現制御に関与していることが示唆された。2つ目の発見はMR-1株のCRP制御系がD-乳酸代謝系遺伝子の発現制御に関与していることである。この発見によりCRPが炭素代謝系と嫌気呼吸系を協調的に制御していることが明らかとなり、本転写因子が従来考えられていたよりも多くの生理学的機能を持っていることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究ではMR-1株の嫌気呼吸を制御するシグナル伝達機構の解明を目的として研究を行った。今年度は研究の過程で、MR-1株のCRP制御系における2つの新たな生理機能を発見したため、その解析を進めた。 1. CRPの補因子であるcAMPを分解する酵素CpdAをコードする遺伝子の破壊株(cpdA破壊株)が乳酸を唯一の炭素源とした培地 (乳酸最少培地)において著しい生育障害を示すことが明らかとなった。そこでcpdA破壊株と野生株のトランスクリプトームの違いをDNAマイクロアレイを用いて解析した。その結果、野生株と比較してcpdA破壊株ではヒスチジンやメチオニン、S-アデノシルメチオニンなどのアミノ酸合成遺伝子の発現量が低下していた。そこで、cpdA破壊株をヒスチジン、メチオニンおよびS-アデノシルメチオニンを添加した乳酸最少培地で培養した結果、最終菌体量が野生株と同等のレベルまで回復した。その詳細な発現制御機構については現在調査中である。この発見は細菌がアミノ酸合成・代謝系を包括的に制御する機構を持つことを示唆しており、非常に興味深い知見である。 2. MR-1株のCRP制御系が異化代謝系遺伝子の一つである乳酸脱水素酵素の発現制御にも関与することを発見した。本成果により呼吸系酵素と異化炭素代謝系酵素の発現がCRPにより協調的に制御されていることが示された。この制御系は細菌が効率の良いエネルギー代謝を行うために獲得した機構であると考えられ、環境微生物の生態・生存戦略を明らかにしていく上で重要であると思われる。 以上の成果から、本研究は当初の計画以上に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに本研究から、Shewanella属細菌におけるCRP制御系の生理機能および金属還元細菌の環境中での生態の解明の足がかりとなりうる成果を得ることができた。この成果は、当初予定していた以上の成果であると考えている。平成29年度はCRP制御系のシグナル伝達機構の解析と高電流生産株の構築の実施を予定している。具体的な内容は以下に示す。 (I)乳酸 (電子受容体) とフマル酸 (電子供与体) を様々な比率で添加した最少培地でMR-1株の嫌気培養を行う。その後、細胞内のcAMP濃度測定およびcAMP濃度制御因子であるcyaABC, cpdA遺伝子のmRNA発現量の比較を行い、酸化還元状態に応じたCRP制御系のシグナル制御機構を解明する (II)平成28年度および平成29年度の実験から得られた結果を元に、MR-1株が最も電流生成を行うと考えられる遺伝子改変を行い、高電流生産株の構築を行う。例えば、細胞内のcAMP濃度と細胞外電子伝達系遺伝子の発現を上昇させるような遺伝子導入を行う予定である。
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Research Products
(4 results)