2016 Fiscal Year Annual Research Report
菌類寄生および共生細菌による宿主の生殖操作に関する研究
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16J08716
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
高島 勇介 東京農工大学, 大学院連合農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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Keywords | 菌類内生細菌 / ケカビ門菌類 / Mortierella / 有性生殖 / ホモタリズム / 接合胞子 / 単胞子分離 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、Mortierella属菌に内生するBurkholderiaceae科に属する菌類内生細菌(Burkholderia-related endobacteria: BRE)を材料とし、1.BREの宿主菌類細胞からの除去法の確立および2.BRE保有および非保有株間における宿主の無性および有性生殖構造(接合胞子)の形態変化の観察について研究を実施した。 1.はじめにBREの除去法を確立する前段階として、宿主の胞子嚢胞子の形成過程でBREが宿主菌類から脱落し、非保有株が生じる可能性があるかをBRE保有Mortierella属菌10種16菌株について検討した。その結果、単胞子分離によりBRE非保有株が得られたのは16菌株中2菌株であった。それら2菌株はM. minutissima YTM23およびMortierella sp. YTM39であり、非保有株となった単胞子嚢胞子分離株の割合は、それぞれ25%および13%であった。次に、抗生物質処理によるBRE除去をBRE保有株であるMortierella sp. YTM39およびM. parvispora E1425およびE2010について検討した。その結果、胞子嚢胞子に対して、シプロフロキサシンを処理することにより、3菌株すべてにおいてBRE除去株の確立に成功した。 2.Mortierella sp. YTM39のBRE保有(野生株)および除去株について、人工培地上での菌糸伸長、胞子嚢形成および接合胞子形成能を比較した。この菌株は、ホモタリズムを示す種であり、単独で接合胞子を形成するため、交配実験をする必要なく接合胞子形成の有無を観察できた。その結果、Mortierella sp. YTM39において、BRE保有の有無は菌糸伸長や胞子嚢形成に影響は与えない一方、BRE保有株では接合胞子形成を阻害している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、菌類内生細菌が宿主の生殖能にどのように影響を与えるか、また、特に有性生殖に関して、内生細菌の有無により有性生殖に関わる遺伝子の発現量がどのように変化するかを明らかにすることである。平成28年度は、Mortierella属菌に内生するBREの除去法を確立し、また、ホモタリズムを示すBRE保有株Mortierella sp. YTM39を用いて、BRE保有および除去株を比較することで、BREにより宿主の接合胞子の形成が阻害されるという結果を得ることができた。次年度はこの共生系をモデルとして、内生細菌保有および除去株における宿主の遺伝子発現量の比較を進めることが可能である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は、BREにより宿主の接合胞子の形成が阻害されるという結果を得ることができたMortierella sp. YTM39およびそのBRE共生系を“細菌による菌類の生殖操作研究のモデル”と位置づけ実験を進める。 BREの保有の有無と宿主の有性生殖に関わる遺伝子発現の関係性を明らかにするために、特にケカビ門菌類の性フェロモンとして知られるトリスポリック酸の前駆体であるβ-カロテンの生合成に関わるCarRA遺伝子の発現量を解析する。また、それ以外の遺伝子発現変動の影響も考えられるためRNA-seqといった次世代シーケンサーを用いた網羅的なトランスクリプトーム解析も検討する。 また、現在確認している限り、Mortierella属菌に内生するBREは3つの系統群に分かれることが明らかになっており、Mortierella属菌に内生するすべてのBREが接合胞子の形成阻害を示すかは明らかになっていない。これに対し、Mortierella sp. YTM39の近縁種であるM. parvispora E1425より、Mortierella sp. YTM39に内生するBREとは系統的に異なるBREの分離培養に成功した。今後、そのM. parvispora E1425から得たBRE培養株をBRE非保有Mortierella sp. YTM39に導入することで、異なる系統のBREが接合胞子形成およびCarRA遺伝子の発現量に与える影響についても検証する。
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Research Products
(6 results)