2016 Fiscal Year Annual Research Report
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16J08805
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
松田 英子 東京農工大学, 大学院工学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
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Keywords | 共感覚 / 発達 / 運動学習 / リハビリテーション |
Outline of Annual Research Achievements |
1)ロボットマニピュランダムを用いた、能動的な色選択による運動の同時学習の促進 相反する二つの運動 (例:左回りに力を加える運動と、右回りに力を加える場合) を続けて学習することは、これまで困難であると言われてきた。しかしその後の研究により、色を用いて運動の違いを被験者に意識させることによって、同時学習が促進されることが分かっている(Osu et al., 2004)。例えば運動Aの学習中には赤色、運動Bの学習中には青色を課題中に提示する等である。 先行研究(Osu, 2004)では、予め決められた色を用いていたが(運動Aは赤, Bは青など)、当該実験では、提示する色を被験者本人が能動的に選択した場合には学習が改善されるとの仮説を立て、それを検証した。マニピュランダムと呼ばれる手先の運動制御・計測を行う装置を用いて、28名の実験参加者を対象に実験を行った。その結果、実験群にはアフターエフェクトと呼ばれる直線軌道からのずれが少なく、同時学習が効果的に行われている傾向が分かった。 2)小学生に見られる数字の擬人的表現 共感覚の一つに、Ordinal linguistic personification (OLP) と呼ばれるものがある。数字、アルファベット、月日など序列を持つ概念に対して、擬人的な表現が割り当てられる現象であり、回答の時間的な安定性、自動性、独自性の3点から共感覚の一つであると言われている。本研究では、OLPが発達の過程で変化するという仮説に基づき、小学生 151名 (4年生63名, 6年生88名) と対照群として成人55 名に対して調査・解析を行った。その結果、年齢が上がるに連れて、回答の時間的安定性・回答の頻度・多様性ともに減少することが分かった。以上の結果から、擬人的表現を割り当てることが、数字を弁別に役立つ可能性を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請内容であるロボットマニピュランダムを用いた行動実験を、当初の予定通り30名程度の被験者を対象に実施した。その結果、運動の同時学習に対する効果的な方法について、仮説を裏付ける行動指標が見られ、2017年3月に行われた研究会にて議論を行った。この成果を、当初の予定通り2017年5月現在国際的な論文誌への投稿準備をしている。 また、共感覚の発達的側面を明らかにするために、小学生を対象とした調査を行った。当初の予定では、小学1年生-中学3年生を対象として、様々な共感覚的傾向を同時に調査する予定であった。しかし、実際の調査においては、当初の計画よりも質問数を出来るだけ簡便にし、実験参加者である児童の負担を出来るだけ軽減させる必要があった。そのため、当初の研究課題をより細分化し、少ない質問数の調査を複数実施することにした。まず、OLP (Ordinal linguistic personification) と呼ばれる共感覚についての、小学生4, 6年生151名を対象とした調査結果をまとめ、現在国際的な論文誌への投稿準備中である。また、漢字に対する共感覚的傾向についても小学生42名を対象に予備的な調査を行った。この結果を元に、本調査を本年度(平成29年度)に実施する予定である。実践的な理由によって、実験計画に変更があったが、概ね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は上記の成人を対象とした行動実験の結果をまとめ、国際的な論文誌へ投稿する。この実験では「色と運動学習」の関連について検証したが、今後は異なる感覚器に対しても同様の実験を発展させる。例えば匂いによって運動学習が促進されることが、これまでの実験からわかっている(論文準備中)。これらの行動実験による知見を綜合し、感覚器毎の学習に対する効果の違いを明らかにする。同時に、数理モデルを作成し、クロスモーダルな情報の学習への影響と、感覚器による効果の差異にについて、数学的な特徴を明らかにする。共感覚は特に、色に関するものが多いことが分かっているが (文字や音に対して色を感じるなど)、その理由はわかっていない。複数種類の感覚器について検証を行うことで、共感覚に色に関するものが多い理由と、行動への影響について理論構築を行う。 また、上記のように小学生を対象とした調査を行う。既に実施したOLPに関する調査は国際的な論文誌へ投稿し、先年度に予備調査を行った漢字に関する共感覚的傾向については、本年度に本調査を行う。最終的には、共感覚的傾向の発達的側面の包括的理解を目指す。例えば「文字に色を感じる」共感覚は、6-7 歳の児童において成人の場合と同程度であるが(Simner et al., 2009)、「数字に性格を感じる」タイプの共感覚的傾向は一般的な4, 6 年生に見られ、成人にかけて度合いが減少することが示されている(論文準備中)。子どもに見られる共感覚的傾向に関する研究は少なく、不明な点が多い。そこで、小学生を対象に調査を行い、傾向の変化から、共感覚の発達における寄与を推定する。特に小学1年生-中学3年生を対象に、質問紙法を用いて、文字に関する共感覚的傾向を尋ねる。
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