2017 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
16J08805
|
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
松田 英子 東京農工大学, 大学院工学研究院, 特別研究員(PD)
|
Project Period (FY) |
2016-04-22 – 2019-03-31
|
Keywords | 共感覚 / 運動学習 / 学習 / ロボットマニピュランダム |
Outline of Annual Research Achievements |
共感覚とは、ある感覚刺激によって別の種類の感覚が立ち上がる現象である。例えば、文字を見て色や性格を感じたり、音を聴いて色を感じるなどである。共感覚は人口の約1%に見られる感覚であるが、共感覚的傾向と呼ばれる、文字と色などの弱い連関は、広く一般に見られることが知られている。共感覚は幼少期に広く見られ、発達に伴い失われることがこれまで示唆されてきたが、実証した研究はこれまでになかった。そこで本研究では、一般的な小学生184名を対象にして数字・漢字に対する共感覚的傾向を調査した。現在は結果の解析中であるが、この研究が完成すれば、共感覚の形成過程が明らかになることが期待される。 また、共感覚は記憶や弁別に寄与していることが示唆されてきた。これまでは主に認知機能との関連が論じられてきたが、本研究では共感覚的傾向の運動機能への寄与を調べた。具体的には、ロボットマニピュランダムと呼ばれる、手先の運動を制御・記録するシステムを用いて、成人の運動学習の過程を調べた。共感覚の特徴の一つは、例えば文字「K」に対し青色のイメージを感じる人、黄色のイメージを感じる人など、人によって独自な回答が得られることである。そこで、自分なりの色のイメージを持つことで、手先の運動機能が改善されることを調べた。相反する2つの力場において学習を行うと、それぞれが影響しあい、学習が阻害されることが知られているが、その被験者が「運動のイメージに合う色」を運動と同時に提示することで、干渉が軽減されることを示した。予め決められた色を提示した場合には軽減は起こらなかった。これより、独自な色のイメージを持つことは、運動学習へ寄与していることが分かった。現在は論文執筆中である。 これらの研究を統合することで、共感覚の発達における機能的側面について考察が可能であり、児童期における漢字・算数の学習法の提案をめざす。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請課題であるロボットマニピュランダムを用いた行動実験について、計画通り被験者実験を完了し、その結果を2017年度に実施されたASSC (the 21st annual meeting of the Association for the scientific study of consciousness) にて発表した。現在は論文を執筆中であり、本年度中の出版が見込まれる。また、実験と同様のパラダイムを用いて、嗅覚刺激を用いた発展的な実験を行った。その結果、嗅覚刺激によって逆行性干渉が軽減されることを示し、2017年の国際会議 (IEEE MHS) で発表、現在は論文投稿中である。さらに共感覚の発達的側面を実証するために、小学生184名を対象にした調査紙実験を行い、現在は結果解析中である。以上の結果は、最終年度である2018年度中に学術誌への発表が見込まれ、概ね順調に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度は最終年度であるため、これらの研究をまとめ、学術誌に投稿する。 1) 小学生に見られる漢字の色字共感覚: 本研究では、小学生を対象にして漢字の色字共感覚の調査を行った。2017年10-12月にかけて、小学生184名を対象に本調査を行った。現在は結果の解析中であり、上半期中に国際的な学術誌に投稿予定である。 2) ロボットマニピュランダムを用いた、嗅覚刺激の提示による運動の逆行性干渉の軽減: 人は新しく経験する力学系(例えば手先に外力が加わる場合など)に、学習を通して適応出来る。学習された運動は約4時間をかけて定着するが、定着が起こる以前に相反する運動を行うことで、定着が阻害される。これは逆行性干渉と呼ばれ、例えば、手先に右回りの外力が加わる環境下で運動学習を行った直後に (条件Aとする)、左回りに外力が加わる条件 (条件Bとする) で運 動を行うと、条件Aで学習された右回りの運動が定着しないことが知られている。本研究では、嗅覚刺激の提示によって、逆行性干渉が軽減されることを示した。現在は論文投稿中であり、本年度中の出版をめざす。 3) ロボットマニピュランダムを用いた、能動的な色選択による逆行性干渉の軽減: 上記の実験と同様の実験パラダイムにおいて、本研究では特に、色刺激の逆行性干渉の軽減に対する効果について検証した。先行研究では、色刺激は有意な効果が見られないが、例えば条件Aに対しては赤色を提示し、条件Bに対しては青色を提示するなど、提示される感覚刺激が予め決められていたものであった。本研究では、提示する色を被験者本人が能動的に選択した場合には、運動に対するイメージをより強く持つことが出来、逆行性干渉が軽減されるという仮説を立てた。成人40名を対象にしたロボットマニピュランダムを用いた行動実験にて実証し、本年度 (2018年度) には国際的な学術誌に投稿、出版をめざす。
|